支払先のイニシャル記載のみだと使途秘匿金?
T&A master No.553に”支出先のイニシャル記載でも使途秘匿金”という記事が掲載されていました。
この記事で取り上げられていた事案は、支出した販促費が使途秘匿金に該当するかで争われたものです。税務当局からの支出内容が客観的に明らかになる資料の提出要求に対し、納税者側は、日付とイニシャルのみが記載されたメモを提出しました。
そして、納税者は以下を根拠に使途秘匿金には該当しないと主張しました。
- 相手方の指名等を開示した場合、取引継続ができなくなると予想されることから、相手方の氏名等を帳簿に記載していないことには「相当の理由」がある。
- 日付とイニシャルのみであっても、納税者側は具体的な相手方を理解でき、かつ、第三者からみても特定の誰かを指していることが分かる形で、時系列に沿って記載されている。
これに対して審判所は、「相当の理由」は、使途秘匿金課税制度の趣旨と社会通念に照らして判断することとなるが、納税者の主張する理由は「相当の理由」となりえないことは明らかとしました。
また、日付、イニシャルおよび金額のみの記載では、支出の相手方の氏名等を帳簿書類に記載しているとはいえず、第三者や税務当局が相手方を知りえる状況にあるか否かは、この判断に影響しないとしました。
さらに、総勘定元帳および小口現金出納帳には、販促費の支出相手の氏名等が記載されていない支出もあり、納税者が提出したメモがあるだけでは、氏名及び住所等支出の相手方を特定できる記載とは到底言えないとして、「帳簿書類に記載していないこと」に該当し、使途秘匿金として取り扱われるという判断が下されました。
実質的に相手が誰だか特定できればよさそうなものですが、「相手方の指名等を開示した場合、取引継続ができなくなる」というような、あやしい支出は厳しく判断されても文句は言えないということでしょう。
以下、使途秘匿金について確認していきます。
使途秘匿金
1.制度の概要
租税特別措置法で定められている制度で、法人が使途秘匿金を支出した場合には、その使途秘匿金の金額は損金に算入されないうえ、使途秘匿金額の40%の税額が法人税に加算されます(措法62条1項)。
なお、従来は適用期限が設けられていましたが、平成26年税制改正によって適用期限は廃止され、恒久的な措置となっています。
2.使途秘匿金とは?
使途秘匿金とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引き渡しを含む)のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名または名称および住所または所在地並びにその自由を帳簿書類に記載していないものを意味します。
3.使途秘匿金に該当しないケース
(1)相当の理由がある場合
(2)資産の譲受等、取引の対価として支出されたことが明らかなもので、適正な価額であるもの(措法62条2項)
(3)取引の対価以外の支出であっても、その相手方の氏名等を帳簿書類に記載しなかったことが相手方の氏名等を秘匿するためのものであると認められるとき(措法62条3項)
(1)の「相当の理由」がある場合について、上記の事案では、「不特定多数の者との取引で、その取引の性格上、相手方の氏名等がわからないものや小口の金品の贈与のように、相手方の氏名等を一々帳簿書類に記載しないことが通例となっている支出や、災害等による帳簿書類の紛失」などは、「相当の理由」となるとされています。
4.使途秘匿金の判定時期
法人のした金銭の支出等が使途秘匿金の支出に当たるかどうかは、原則としてその支出事業年度の終了の日において相手方の氏名等を帳簿書類に記載しているかどうかにより判定することが原則とされています。
5.使途秘匿金と質問検査権
使途秘匿金として重課制度が適用された場合であっても、その相手方の氏名等に関し税務職員の質問調査権の行使が妨げられるわかではありません(措法62条8項)
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