改正会社法で導入される多重代表訴訟とは?
2014年6月に成立した改正会社法において「多重代表訴訟」が導入されることになっています。「多重」ですので、従来の株主代表訴訟よりも訴えを提起できる範囲が広がるというイメージくらいで内容をきちんと確認していなかったので、今回確認してみることにしました。
現行法の株主代表訴訟
現行の会社法847条1項では以下のように定められています。
六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。
上記でいうところの「第四百二十三条第一項に規定する役員等」は、「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人」を意味します。したがって、子会社の取締役は847条1項の対象とはなりません。
そのため、例えば子会社の取締役による不正や任務懈怠による損害が発生したような場合であっても、親会社の株主が子会社の取締役の責任を追及する訴えを提起することを請求することはできず、親会社が子会社の役員の責任を適切に追及することを期待するほかありませんでした。
多重代表訴訟
改正会社法で導入される多重代表訴訟は、親会社の株主が、子会社に対してその取締役等の責任を追及する訴えを提起することを請求することができるというものです。
これは、株主にとってはありがたい改正である一方、会社側からすると濫訴のおそれもあります。そのため、「多重代表訴訟」利用できる株主には通常の株主代表訴訟に加えていくつかの要件が追加されています。
(1)株主の要件
①グループが大きくなると、子会社だけでなく孫会社などもありますが、多重代表訴訟を利用することができるのは、最終親会社(一番上位の親会社)の株主のみです。
②総株主の議決権の 100 分の 1 以上の議決権又は発行済株式(自己株式を除く)の 100 分の 1 以上の数の株式を保有している必要があります(公開会社において6か月要件は通常の株主代表訴訟と同様)。
(2)対象会社の要件
①多重代表訴訟を利用できる対象会社は、100%子会社(孫会社)に限られます。
②対象子会社(孫会社)の株式の帳簿価額が、最終親会社の総資産の5分の1超であること。
どれくらい使えるのか?
上記の要件のうち、最後の対象子会社(孫会社)株式の帳簿価額が、最終親会社の総資産の5分の1超というのは、かなりハードルが高い要件ではないかと思います。
重要な子会社に限定しようという点は理解できるものの、せめて子会社の総資産が最終親会社の総資産の5分の1超程度の要件にしないと、制度はあっても対象となる子会社(孫会社)はないというケースが多くなってしまうのではないかと思います。
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