条文の読み方(その6)-「場合」・「とき」・「時」
条文の読み方(その6)として「場合」・「とき」・「時」をとりあげます。今回も「条文の読み方 法制執務用語研究会 有斐閣)を参考にさせていただきました。
1.時
最初に理解しやすい「時」から取り上げます。
会社法で使用例を検索すると、会社法215条(株券の発行)4項に以下の条文がありました。
時間的にある特定の時点を意味するということで、「時」という漢字からのイメージどおりにとらえることができます。
2.「場合」と「とき」
「場合」と「とき」の使い方は以下のように整理されます。
- 「場合」も「とき」も、仮定的条件をあらわす用語であり、基本的にはどちらを使用しても意味は同じである。条文としての読みやすさ、語呂や語感で使い分けがなされるが、前例に倣って使い分けがなされるのが一般的。
- 例外的に「場合」がより大きな条件を表し、「とき」はそれよりも小さな条件に使用するという使い分けがなされることがある。
- 他の条項で規定されている内容を包括的に受ける場合に使用されることもある。
上記2より「場合」と「とき」が混在しているケースでは「場合」がより大きな条件を表している可能性が高いということになりますが、これは知っておくとよいのではないでしょうか。
実際の使用例ですが、上記1の使用方法は実質的にあまり意味がないということのようなので、割愛することとし2と3の使用方法について確認します。
まず、2の使用例についてです。
第二百四十七条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第二百三十八条第一項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。
一 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合
二 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合
法令定款違反や不公正な方法での発行(A)で、かつ、株主が不利益を受ける場合(B)というように、(A)は(B)よりも大きな条件を意味するという関係にあります。
次に3の使用例についてです。
(累積投票による取締役の選任)
第三百四十二条
(省略)
3 第三百八条第一項の規定にかかわらず、第一項の規定による請求があった場合には、取締役の選任の決議については、株主は、その有する株式一株(単元株式数を定款で定めている場合にあっては、一単元の株式)につき、当該株主総会において選任する取締役の数と同数の議決権を有する。この場合においては、株主は、一人のみに投票し、又は二人以上に投票して、その議決権を行使することができる。
4 前項の場合には、投票の最多数を得た者から順次取締役に選任されたものとする。
(以下省略)
「前項の場合」は、まさに第3項全体の規定ないようを受けている使い方となっています。なお、「前項の場合」の他、「前項に規定する場合」という使い方もあり、この場合は前項全体ではなく、その一部のみを受けて使用されるという使い方になります。
例えば、会社法346条(役員等に欠員を生じた場合の措置)では以下のように使用されています。
2 前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任することができる。
上記の「前項に規定する場合」は、第1項の「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合」を指していると考えられます。つまり、1項の条文の一部を指しているので「前項の場合」ではなく「前項に規定する場合」という文言になっていると考えらえます。
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