事前照会のリスクとは?
T&A master No.567に「事前照会のリスクと活用」という巻頭特集が掲載されていました。
事前照会を受けていた事案で否認が発生したことを受けての記事で、事案の概要は以下のようなものです。
- 日本企業のA社が英国法人のB社とケイマンにJVを設立した(持ち分はそれぞれ50%)。
- A社は自社の英国100%子会社a社に税制適格として自社のJV持分を現物出資した。
- A社は当該現物出資が税制適格であることについて事前照会で税務当局に確認していた。
- 税務当局はその後の税務調査で当該現物出資を非適格と否認した。
事前照会後税務調査で否認された原因について上記の記事では、「詳細は必ずしも明らかになっていないが」としつつ、法人税施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産又は負債」の解釈が事前照会後に問題化した可能性があると述べられています。
JVの持分を株式ととらえるのか、個々の資産負債の持分割合に相当する資産負債ととらえるのかによって税制適格になるか否かの判断が異なる可能性があり、「仮に出資持分が国内の事業所の資産として記帳されていれば、そのリスクは一層高まる」と述べられています。
特にこの事案では、A社がa社に持分を譲渡した後、a社は自社の持分をB社に譲渡しB社株式の10%を取得しており、かつ英国でも「これに係る譲渡益への課税が行われていなかったとみられる」ため、課税逃れを疑われたのではないかという見解が示されています。
「本事案をきっかけに、事前照会で確認されたことが容易に覆されるようになるのかというと、それは考えにくい」ものの、事前照会で税務当局から「課税されない」という回答を得たとしても、それは「税務調査で否認しない」ことを確約するものではないため、事前照会の段階では把握されていなかった新たな事実が税務調査で把握されたようなケースでは税務当局の立場も変わりうる可能性があるとされています。
税務訴訟等では、しばしば事実認定を巡り争われることがあるように、「事実」は見る人によっても、視点が変わってくるため、「事実認定に結論が左右されるような事項については、そもそも事前照会を行うこと自体、それなりのリスクが伴うという点に留意しなければならない」と述べられています。
事前照会で税務当局が課税するという見解を示した場合、これが「税務調査で是認されることはまずないと考えて間違いない」一方で、事前照会は税務調査で否認を行わないことを確約するものでないものの、一定のお墨付きを与える以上、「通常の税務調査よりも保守的な回答が回答が出やすいものとも考えれる」ため、事前照会してしまったがためにスキームが実行できなくなってしまうという可能性もあるということです。
そうした状況を考えると、あえて事前照会を行わないという選択肢もあり得るのではないかとされています。
自社に都合のよい事実だけ伝えて税務当局からポジティブな回答を得ておこうという気持ちはよくわかりますが、事前照会をするのであれば、課税の取扱で不安に感じている点をきちんと照会しないと、後で痛い目にあうという点を認識しておく必要がありそうです。
最後に、上記事案に関連する条文を確認しておきます。
法人税法2条十二の十四
適格現物出資 次のいずれかに該当する現物出資(外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの及び外国法人が内国法人に国外にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの並びに新株予約権付社債に付された新株予約権の行使に伴う当該新株予約権付社債についての社債の給付を除き、現物出資法人に被現物出資法人の株式のみが交付されるものに限る。)をいう。
イ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該現物出資
(以下省略)
法人税法施行令4条の3第9項
9 法第二条第十二号の十四 に規定する国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債は、国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法 (昭和二十五年法律第二百八十九号)の規定による鉱業権及び採石法 (昭和二十五年法律第二百九十一号)の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産(外国法人の発行済株式等の総数の百分の二十五以上の数の株式を有する場合におけるその外国法人の株式を除く。)又は負債とし、同条第十二号の十四 に規定する国外にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債は、国外にある事業所に属する資産(国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法 の規定による鉱業権及び採石法 の規定による採石権を除く。)又は負債とする。
つまり「外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの」は適格現物出資の範囲から除外されますが、「外国法人の発行済株式等の総数の百分の二十五以上の数の株式を有する場合におけるその外国法人の株式」については、「政令で定める資産」から除かれるため、条文上は、A社が自社の100%子会社である外国法人のa社に対して25%以上の持分を有する外国JVの持分を現物出資した場合、適格現物出資にあたると読めるということです。
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