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クロス取引による節税でも課徴金が課せられる?

3月決算の会社は年度末が近づき保有している有価証券の売却等を検討している会社もあるのではないかと思います。法人でクロス取引を行った場合の取扱については、以前も記載したとおり売買処理することはできず、金融資産を担保とした金銭貸借取引として処理されることになります(金融商品実務指針42項)。

一方で個人でクロス取引を実施したことに関連して「節税で株クロス取引、課徴金命令は適法」という記事がT&A master No.586に掲載されていました。

ここで紹介されていた事案は、ある個人投資家が、「特定口座内での株式の取得単価の計算では小数点以下が切り上げられるため、この切り上げ分だけ簿価(取得単価)が高くなる場合があることを利用して」クロス取引を多数回実施していたことが、金商法159条1項1号に定められている「繁盛等誤解目的」(取引が繁盛に行われていると他人に誤解させる目的で行う取引)による「仮装売買」(権利の移転を目的としない取引)に該当するとして課徴金の納付が命じられたことを巡って争いになったというものです。

金商法159条1項1号では、有価証券の売買等について、「繁盛等誤解目的」(取引が繁盛に行われていると他人に誤解させる目的で行う取引)をもって、「仮装売買」(権利の移転を目的としない取引)をすることが禁止されています。そして、この規定に違反した者は、金商法の規定により、課徴金の納付が命じられるとされています(金商法174①)。

(相場操縦行為等の禁止)
第百五十九条  何人も、有価証券の売買(金融商品取引所が上場する有価証券、店頭売買有価証券又は取扱有価証券の売買に限る。以下この条において同じ。)、市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引(金融商品取引所が上場する金融商品、店頭売買有価証券、取扱有価証券(これらの価格又は利率等に基づき算出される金融指標を含む。)又は金融商品取引所が上場する金融指標に係るものに限る。以下この条において同じ。)のうちいずれかの取引が繁盛に行われていると他人に誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもつて、次に掲げる行為をしてはならない。
一  権利の移転を目的としない仮装の有価証券の売買、市場デリバティブ取引(第二条第二十一項第一号に掲げる取引に限る。)又は店頭デリバティブ取引(同条第二十二項第一号に掲げる取引に限る。)をすること。

(以下省略)

具体的に、この個人投資家がどのくらいの節税を実現していたかというと、「平成22年分は約108万円、平成23年分は約154万円の株式譲渡損失を発生させていた」とのことです。小数点以下の端数処理で、これだけの節税を実現するためにはかなりの金額の売買を行わなければならないことは容易に想像できます。
売買回数としては、「54営業日中29営業日で36回」とされています。全体で36回というとそれほど回数としては多くないように感じてしまいますが、当該取引による市場占有率は「54営業日中29営業日で16.88%等」とされています。

結果的に節税額が100万円以上となっており、「この点に関し個人投資家は、本件クロス取引は節税を主たる目的とする経済的合理性のある取引であるため、仮装売買および繁盛等誤解目的には当たらないと主張した」そうです。

しかしながら、この主張に対し裁判所は、仮装売買に当たるか否かの判断は取引の主観的目的等に左右されないため、仮に節税目的で本件クロス取引が行われたとしても、そのことを理由に仮装売買に当たらないとすることはできないと指摘」し、「また、仮装売買を行う何らかの合理的な理由があるとしても、繁盛等誤解目的がないことになるということはできないと指摘したとのことです。

その上で、上記の通り、仮装売買が多数回行われており、市場占有率も相対的に高かったことから裁判所は課徴金納付命令は適法であると結論付けたとのことです。

ちなみに、課徴金の金額がいくらだったのかですが、金融庁のHPの課徴金事例から当該事案は、おそらく岐阜銀行株式の案件だと推察され、これが正しいとすると153万円となっています。課徴金を支払っても多少のメリットはあったということになりそうですが、安易にまねしてはならない節税手法といえそうです。

最後に金融庁のHPの「課徴金に係る金商法178条1項各号に掲げる事実(違反事実)」部分のみ以下に引用しておきます。

被審人(A)は、平成22年9月29日午後3時30分ころから同年12月16日午後零時30分ころまでの間、36回にわたり、名古屋証券取引所市場第一部に上場されていた、株式会社岐阜銀行(岐阜銀行。平成24年9月18日に株式会社十六銀行(十六銀行)との合併により消滅。)の株式(本件株式。平成22年12月17日上場廃止。)の売買が繁盛に行われていると他人に誤解させる目的をもって、B証券株式会社ほか6社の証券会社を介し、本件株式合計123万8000株につき、自己の売り注文と自己の買い注文とを対当させて約定させ、もって、自己の計算において、本件株式の取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって、権利の移転を目的としない仮装の有価証券の売買をした。

詳細を確認したい方はこちら(金融庁HP)で確認することができます。

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