コーポレートガバナンスコードとは?-(その3)
今回は、コーポレートガバナンスコードとは?-(その2)の続きです。
基本原則3
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。
この基本原則の背景には、「定性的な説明等のいわゆる非財務情報を巡っては、ひな形的な記述や具体性を欠く記述となっており付加価値に乏しくない、との指摘もある」ということがあるようです。
より具体的には原則3-1で以下の開示が求められています。
(ⅰ)会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
(ⅱ)本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針
(ⅲ)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続
(ⅳ)取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
(ⅴ)取締役会が(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の個々の選任・指名についての説明
上記の(ⅲ)については、現状の有価証券報告書のコーポレートガバナンスの状況で「当社の取締役及び監査役の報酬は、株主総会において決議された報酬限度額の範囲内において、取締役は一定の基準に基づき、監査役は監査役会規定に基づく監査役の協議で決定しております。」というような感じで開示されていることが多いですが、「ひな形的な記述や具体性を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべき」(補充原則3-1①)とされていることからすると、このような「ひな形的な記述」では不十分ということになりそうです。
基本原則4
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うことになる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。
この基本原則4に関連する内容は、基本原則5つの中でもっとも多くなっています。基本原則4の下に原則4-1から原則4-14が設けられ、補充原則も数多く設けられています。
この中では、やはり【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】が注目されそうです。
「独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責任を果たすべきであり、上場会社ではそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。
また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考えられる上場会社は、上記にかかわらず、そのための取り組みを開示すべきである。」
「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考えられる上場会社」とはどのような会社かですが、投資家の視点からするとインデックスに組み込まれているような会社は該当するのではないかと思います。
なお、上記は「基本原則」ではありません。東証は、マザーズ・ジャスダック上場会社については基本原則を遵守しない場合にのみ説明を求めるとのことなので、これら市場の上場会社は仮にこの原則を満たしていなくても説明は不要とのことです。
次に補充原則4-1②では以下のように定められています。
「取締役会・経営陣幹部は、中期計画も株主に対するコミットメンの一つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行うべきである。仮に、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因や自社行った内容を十分に分析し、株主に説明を行うとともに、その分析を次期以降の計画に反映させるべきである。」
つまり、中期経営計画を策定し開示している会社は、計画が未達の場合には株主に説明が必要となるということです。中期経営計画を開示していないもめずらしくないですが、中期経営計画を策定しないという経営判断も尊重すべきというのが金融庁の立場とのことです(T&A master N0.586)。よって、中期経営計画を策定していなければこの原則の適用はないとのことです。
中期経営計画を策定していても開示していない会社もあるのではないかと思いますが、中期経営計画を策定している場合には、上記の原則3-1(i)で開示が求められることとなるので、単純に考えると策定していれば開示、策定していなければ未達でも説明不要ということになります。
もっとも、中期経営計画を開示して経営戦略等を明らかにすることが競合との関係で株主の価値につながらないこともあると思いますし、「本コード(原案)の対象とする会社が、全ての原則を一律に実施しなければならない訳ではないことには十分な留意が必要であり、会社側のみならず、株主等のステークホルダーの側においても、当該手法の趣旨を理解し、会社の個別の状況を十分に尊重することが求められる」とされていることから策定していても開示しないという選択はあってもよいのではないかと思います。
また、【原則4- 11 .取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】では、「監査役には、財務・会計に関する適切な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。」とされています。
確かに必要かもしれませんが、会計監査は監査法人が行っているため、「財務・会計に関する適切な知見を有している者」を常勤監査役とするというのでなければ、1名以上は弁護士が選任されるべきとしたほうが有用な気はします。
基本原則4関連の最後としてもう一つ興味深いものを取り上げます。
それは、【原則4- 14 .取締役・監査役のトレーニング】というものです。一部を抜粋すると「上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべきである。」とされています。
そして補充原則4ー14②では「上場会社は、取締役・監査役に対するトレーニングの方針について開示を行うべきである」とされています。
これはどんな方針が今後開示されるのか注目です。
基本原則5
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との建設的な対話を行うべきである。
経営幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主にわかりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。
これは基本原則の紹介のみにとどめます。
日々成長