個人事業の減価償却はストップできる?
とあるコーヒーショップの隣のテーブルから聞こえてきた会話から今回は所得税における減価償却についてです。
青色申告を前提とすると損失がでれば純損失の繰越が認められますが、青色申告控除の利用で所得がほとんど発生しないような場合、車両等の減価償却費がもったいなく思えることがあります。
そんなこともあり、「減価償却費をしなければいいんだよ」というような会話になっていたようです。
その気持ちよく分かります。しかも、節税についてのサイト等ではそんなことが書かれているものもありますので、納得してしまいそうです。
ところが、所得税と法人税では減価償却費の取扱いがちょっと異なるという点に注意が必要です。結論からすれば、個人事業(所得税)の場合、減価償却をストップするというようなことはできません。
所得税法第49条では以下のように定められています。
(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
第四九条 居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につきその償却費として第三十七条(必要経費)の規定によりその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする。
読みやすく括弧書きをはずすと、最後は「その者が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする」とされています。つまりストップするもなにも無く、ある意味勝手に計算された金額が必要経費となるという建て付けになっています。
では、減価償却費をストップするというような話はどこから出てくるのかですが、これは法人税法上の取扱いによるものです。
法人税法第31条1項では以下のように定められています。
(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
第三十一条 内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。
まとめると法人税法上は、「当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額のうち・・・その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額」とされています。
つまり法人税法上は、まず損金経理された金額が損金算入の最初の要件として存在し、その中で税務上認められる金額が損金算入できるという建て付けになっています。
したがって、会計処理の適正性はともかくとして、減価償却費を計上しなければ、実質的に減価償却費をストップすることができます。
このような法人税法上の取扱いから、無理して減価償却をしないということが節税(あるいは銀行対策)の手法として広まったものと推測されます。ただし、法人税のみの話であって、所得税ではそうはいかないので注意しましょう。
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