マイナス金利と金利スワップ特例処理継続の可否
少し前に下記の記事でマイナス金利と退職給付債務の割引率について記載しましたが、第332回企業会計基準委員会において、今度はマイナス金利下における金利スワップの特例処理の適用可否について審議がなされたとのことです。
結論としては、借入金の変動金利について契約上、マイナス金利を想定した明示の定めがない場合で、かつ、ゼロを下限とすると解釈する場合であっても、平成28年3月決算においては、これまで金利スワップの特例処理が適用されていた金利スワップについて、特例処理の適用を継続することは妨げられないものと考えられるとされています。
ちなみに、ASBJが調査したところ平成27年3月期の有価証券報告書において、連結財務諸表作成の基本となる事項の会計処理基準に関する事項において金利スワップの特例処理を記載している会社は969社あったとのことです。
1.論点
変動金利で借入を行っている場合、仮に金利がマイナスとなっても利息としての性質を有する金額がなくなるに留まり、貸付側が利息を支払うということにはならないと考えられます。
一方で、金利スワップについては、国際スワップ・デリバティブ協会の2006年版定義集によれば当事者が適用金利の下限をゼロとしない限り、適用金利がマイナスになった場合には、変動金利相当額を本来受け取る側の当事者が変動金利の絶対額を支払うことが原則となります。
キャッシュ・フローを固定化するため借入金の変動金利を固定化する金利スワップ契約を締結し特例処理を採用している場合、上記のとおり借入金の利息の下限がゼロであると解される一方で、金利スワップはマイナス金利の影響をそのままうけるとすると、ヘッジ対象の借入金に係る支払利息額と、金利スワップにおける変動金利相当額とが相違して特例処理の要件を満たさないことになるのではないかというのが論点です。
2.金利スワップ特例処理の要件
金融商品実務指針178項において、金利スワップの特例処理を適用するための要件として以下の6つが示されておりすべてを満たす必要があるとされています。
- 金利スワップの想定元本と貸借対照表上の対象資産又は負債の元本金額がほぼ一致していること。
- 金利スワップの契約期間とヘッジ対象資産又は負債の満期がほぼ一致していること。
- 対象となる資産又は負債の金利が変動金利である場合には、その基礎となっているインデックスが金利スワップで受払される変動金利の基礎となっているインデックスとほぼ一致していること。
- 金利スワップの金利改定のインターバル及び金利改定日がヘッジ対象の資産又は負債とほぼ一致していること。
- 金利スワップの受払条件がスワップ期間を通して一定であること(同一の固定金利及び変動金利のインデックスがスワップ期間を通して使用されていること。)。
- 金利スワップに期限前解約オプション、支払金利のフロアー又は受取金利のキャップが存在する場合には、ヘッジ対象の資産又は負債に含まれた同等の条件を相殺するためのものであること。
3.検討内容
適用指針の6要件では6つ目に、支払金利のフロアー又は受取金利のキャップが存在する場合の定めがあるものの、ヘッジ対象資産の受取金利又はヘッジ対象負債の支払金利についてゼロが下限とされている場合の取扱いは明らかにされていないとされています。
そして、会計基準公表時にはマイナス金利は想定されておらず、マイナス金利の状況化で金利スワップの特例処理を継続できるか否かはこれまで議論されておらず、ASBJとして見解を示すには相当の審議が必要であり、現時点において見解を示すのは難しいとされてます。
しかしながら、ヘッジ対象とヘッジ手段の条件が完全に一致することまでは求められておらず、現実問題として借入金がマイナスになっている例は少ないと考えられること、仮にマイナス金利となっている場合でも、借入金の支払利息ゼロと金利スワップにおける変動金利相当額の差は通常僅少であると考えられることから、冒頭に記載のとおり平成28年3月期決算においては金利スワップの特例処理を継続することも妨げられないという検討結果となっています。
従来の処理を継続してよいということなので実務上影響はありませんが、そもそも特例処理はヘッジ会計の特例ですので、マイナス金利という特殊環境下では利息の受払条件が結果的に異なることとなり、そもそもヘッジになっていないというのが原則的な考え方となるはずです。
したがって、マイナス金利幅が拡大したり長期化するとそもそもヘッジが認められなくなるということになるのではないかと考えられます。
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