全員取締役にして残業代を支払わないとどうなるか?-類設計室事件
では、実際どのような業務を行っていたのかですが、肩書きは「教育コンサルタント」で、業務内容は「営業」であったそうです。具体的には、入退塾手続き等の各種受付業務や電話対応、配布物等の管理、生徒対応、学籍管理、電話等での入塾勧誘等で、平成25年1月頃から講師の仕事もしていたとのことです。
塾部門だけで300名以上の就業者がいることを勘案すると、業務内容としても一般的には「取締役」が行う業務とは言いがたいものと考えられます。
ところで、この会社に独特の制度として「劇場会議」なるものがあるとされています。これは、同心円状の座席配置となっている劇場型の会議室で行われる会議で、同社のグループ社員全員の参加が想定されているものとのことです。劇場会議では、主に内野席に座るメンバーが中心となって議論をすすめ、決議を行うに当たって参加者が賛否を明らかにすることができるボタン等が設置され、これを通じて発言や提案を評価・集計できるようになっているそうです。国会みたいなイメージでしょうか。
この劇場会議は不定期に開催され、深夜の時間帯におよぶこともあり、塾部門では2ヶ月に1回程度開催されているとされています。会社としては、この会議を通じで経営に参画しているという外観を作り出したかったのかもしれません。
次に就業者に対する時間管理はどのような感じであったのかですが、この点については裁判所は、会社は正社員に、業務終了後に活動記録を入力することを求めており、活動記録は、各社員が自らの出退社時刻と各種業務時間数を入力するものとされていること、欠勤については厳格に管理され、一定日数以上の欠勤については給与の減額事由になる旨が定められていることから、正社員は出退勤について厳格に管理されていたものと言わざるを得ないと判断しています。
その他の詳細は割愛しますが、上記のような点から普通に判断しても管理職にすらあたらないと考えられますが、裁判所は「紛れもなく労働者と認められる」として「労働者である原告の時間外労働に対しては、労働法に基づき、適正に残業代が支払われなければならない」と判断しました。
その額、残業代合計約548万、遅延損額金合計約123万円、さらに付加金519万円で、合計で約1,100万円となっています。儲かっているようなので、これだけで会社がどうこうということはないでしょうか、他に300人同じような状況の労働者がいたとすると、影響額もかなり大きくなることが想定されます。
名ばかり管理職ならぬ名ばかり取締役でも、名ばかりであれば労働者と判断されるというのは、普通に考えると当然ですが、苦し紛れにこのようなことをやるのはやめましょう。
日々成長