租税条約に関する届出書が提出されていなくても租税条約による軽減免除は当然に適用される?
租税条約の適用を受けるために租税条約に関する届出書の提出が必要で、これが提出されていないと租税条約の軽減免除は受けられないと思っていましたが、本来はそのようなことはないということを知りました。
詳しくは第2版 事例でわかる国際源泉課税(牧野 義孝 著)で解説されていますので、そちらを御確認することをお勧めしますが、簡単に内容をまとめると以下のようになっています。
日本国憲法98条2項において「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」とされており、租税条約を遵守することは最高法規である憲法で定められています。
一方で、租税法定主義に反しないように所得税法162条(租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得)や法人税法139条(租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得)において、租税条約の定めが優先されるべきことが定められています。
そして、ここで問題となるのは租税条約における以下のような税率の定めです。
「当該利子が生じた締約国においても、当該締約国の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、当該利子の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、当該利子の額の10%を超えないものとする。」
このような場合10%で源泉徴収することとなると理解していましたが、言われてみれば「10%を超えないものとする」なので、10%でなく5%でも0%でも租税条約上は問題ないということになります。
なぜ上記のような租税条約の場合に10%を適用することになるのかですが、これは「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例に関する法律」(以下「実施特例法」)の定めによるものです。
実施特例法では、第2条5号において、上記のような租税条約における一定の税率を「限界税率」として定義したうえで、第3条1項で、この限界税率を所得税率等で規定する税率に置きかえる手当をしています。
そのため、租税条約で定められている上限税率を用いて源泉徴収を行えばよいという理屈になります。
ところが、実施特例法第3条の2(配当等に対する源泉徴収に係る所得税の税率の特例等)の条文は第1項から27項まであるものの、そのどの項(第27項で直接委任を受けた政令を含めて)でも所得に関する租税条約により所得税法等で規定する税率から軽減したりすることに関して、一切の条件をつけていません。
実施特例法第12条(実施規定)には省令に対する包括的委任規定が設けられていますが、「この種の包括委任規定では、省令において、いわゆる法律要件を定めることはできないと解されている(参考判例 東京高等裁判所平成7年(行コ))第26・29号過誤納金還付請求控訴事件(税務訴訟資料214号 531頁))」(第2版 事例でわかる国際源泉課税 牧野 義孝 著)とのことです。
「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令」(以下「実特法省令」)第2条では「相手国居住者等配当等に係る所得税の軽減又は免除を受ける者の届出等」について定めれており、第1項本文では「・・・次の各号に掲げる事項を記載した届出書を・・・当該源泉徴収義務者を経由して、当該源泉徴収義務者の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。」とされています。
したがって、租税条約に関する届出書を提出しなければならないわけですが、届出書を提出しなければどうなるのかについては書かれていません。そもそも、この届出書を提出しなければ軽減免除を受けることができないとも書かれていません。
これは、「実施特例法本法から実特法省令への個別委任規定がないので、実特法省令で法律要件(効力要件)を規定することができないことからも当然のことではある」(同上)と述べられています。
以上を踏まえると、源泉所得税の税務調査において、非居住者源泉の課税漏れを指摘された場合、その所得の受領者が所得に関する租税条約の適用がある者だと確認できたら、限度税率で源泉徴収を行えばよく、租税条約に関する届出書は後出しで対応すればよい1ということになるとのことです。
だとすると、届出書は何のためにあるのかということになりますが、これは別の機会にします。