消化仕入の表示方法を総額表示から純額表示へ変更-平成28年3月期丸井
T&A master No.659で平成28年3月期における会計方針の変更事例の特集が組まれていました。
監査報告書の強調事項から集計した結果では、固定資産の減価償却方法を定率法から定額法へ変更した会社が25社あったとされており、変更トレンドは継続しているようです。
減価償却方法の変更のほかに取り上げられていた会計方針の変更として、丸井グループの「売上高の会計処理の変更等」が紹介されていました。
変更内容は、顧客への商品の販売と同時に取引先より商品を仕入れる、いわゆる消化仕入取引について、従来、「売上高」及び「売上原価」を総額表示していたものを利益相当額のみを売上に計上する純額表示に変更したというものです。
同社の有価証券報告書を確認すると、消化仕入取引は重要な在庫リスク等を実質的に負担しない取引であるため、会計制度委員会研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)」を総合的に勘案したと説明されています。
もっとも、会計制度委員会研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)」自体は2009年に公表されているので、何を今さらというところですが、上記の説明に続いて変更理由として以下のように述べられています。
当社グループでは、消費環境の変化に対応するため、中期経営計画に基づき仕入販売を中心としたビジネスモデルを転換し、丸井独自のショッピングセンター型の店づくりに取組んでおりますが、この取組みをさらに本格的に進めるうえで、中期経営計画の進捗を測る経営成績をより適切に表示し、売上高の経営指標としての有用性をより高めるために上記の変更を行っております。
この変更にあわせて従来の「売上高」を「売上収益」という名称に変更していますが、平成28年3月期の有価証券報告書で前期までの4期間の売上高の推移を確認してみると、4100億円前後で安定的に推移しているものの、平成25年3月期および平成27年3月期は減収となっています。
一方で経常利益は平成24年3月期の176億円から毎期増益となっており、平成27年3月期は280億円、平成28年3月期は292億円となっています。これが、会社の説明するように「仕入販売を中心としたビジネスモデルを転換」による効果であるとすれば、売上高の増減が「中期経営計画の進捗を測る経営成績」を適切に表示されていないというのも納得できます。
ちなみに丸井グループは、上記のとおり会計方針を変更したことにより、変更後の会計方針を遡及適用した平成27年3月期の売上収益は従来の売上高に比べて1,551億円減少しています。従来の売上高の約3割が消えたこととなりますが、利益額は変わらないので売上高(売上収益)に対する利益率で考えると、平成27年3月期の売上高経常利益率は約6.9%であるのに対して、売上収益経常利益率は約11.2%と計算されますので大きくイメージが異なります。
しかも、従来方式では、4期中2期が減収増益となっており、経営計画が順調に推移していたとすれば、会社としては結果がしっくりこないものであったと思われます。純額方式が会社の経営成績を示す適切な指標であるとすれば、今後は増収増益あるいは減収減益という直感的に理解しやすい方向で結果が表れることになるのではないかと思われます。
IFRSの強制導入が検討された当時、売上の純額表示はネガティブに紹介されることが多かったように記憶していますが、そうとも限らないという事例の一つといえるかもしれません。