「過労死等防止対策白書」-こんな白書があったんだ
平成28年10月7日に厚生労働省から「平成28年版過労死等防止対策白書」なるものが公表されました。
今回、はじめて公表された白書ですが、「平成28年版」とあるので今後も定期的に公表されることとなるのかもしれません。それにしても、こんな白書を真面目に公表しなければならないという状況は残念という他ありません。
先日も、電通の新入社員の自殺が労災認定されたとして話題となっていますが、時間外労働時間の時間は「昨年10月9日から1カ月間の時間外労働は約105時間」という部分が多く取り上げられているようです。
脳・心臓疾患の労災認定の過去の判例から、発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働とか、2か月ないし6か月間にわたって1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働とかいう水準が実務上も意識されていますが、現実問題としてこの時間数を超えてしまうことはそれほど珍しいことではないというのが実態ではないかと思います。
特にプロジェクト系の仕事の場合、1か月100時間というのは正直それほど高いハードルではありません。
たとえば、所定労働時間が9時~18時(休憩1時間)の場合、22時まで残業すると1日4時間残業となり、平均20営業日とするとそれで80時間、土曜日に3日出勤し各8時間働くと104時間の時間外労働となります。したがって、深夜労働時間が0時間でも100時間は超える可能性があるレベルです。
労働者の立場からすると労災認定されやすくなるわけですが、今回の電通のようなケースでは時間がフォーカスされると自ら死ぬことを選ばなければならないほど追い込まれた実態が見えにくくなるという側面もあります。
時間にばかりフォーカスされると、某大学の教授による「月当たり残業時間が100時間を超えたくらいで過労死するのは情けない」というような意見が出てくることになります。
ただし、今回のケースでは、報道で紹介されているSNSの投稿内容と時間外労働の時間数が感覚的にまるでマッチしないので、時間外労働とされている時間数自体も疑わしく感じます。労災認定するだけであれば100時間超であったことが確認できればよいのかもしれませんが、実態は全く分かりません。
ちなみに、「平成28年版過労死等防止対策白書」では「民事上の個別労働紛争相談件数に占める「いじめ・嫌がらせ」の割合及び相談件数」として以下のグラフが掲載されています。
仮に残業時間が80時間であっても、その間、いじめられ続けているというような状況であれば、普通の時間外労働80時間とは比べものにならないくらい心理的な負担は大きくなり、そのような日常であったとしたら「月当たり残業時間が100時間を超えたくらいで過労死するのは情けない」という意見はでてこなかったのではないかと思います。今後の報道等で実態が究明されることを望みます。
「平成28年版過労死等防止対策白書」には上記のグラフのほかにも様々なグラフ等が掲載されているので、グラフなどの図表だけでも見てみるとよいのではないかと思います。