海外子会社への貸付で移転価格課税
T&A master No.662の「海外子会社への金銭貸付で移転価格課税」という記事で、海外子会社への貸付金の利息に関して、同利息が独立企業間価格に満たないとして移転価格税制を適用した課税処分を審判所が認めたという事案が紹介されていました(平成28年2月19日)。
個人的に子会社に対する貸付というと寄附金認定を連想してしまいますが、海外子会社への貸付の場合、基本的には移転価格の問題として処理されることとなり、貸付金利息が独立企業間価格に満たない場合には、移転価格税制が適用されるリスクがあります。
この点、移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)の3-7では以下のように述べられています。
(独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法による金銭の貸借取引の検討)
3-7 法人及び国外関連者が共に業として金銭の貸付け又は出資を行っていない場合において、当該法人が当該国外関連者との間で行う金銭の貸付け又は借入れについて調査を行うときは、必要に応じ、次に掲げる利率を独立企業間の利率として用いる独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法の適用について検討する。
(1) 国外関連取引の借手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率
(2) 国外関連取引の貸手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率
(3) 国外関連取引に係る資金を、当該国外関連取引と通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率
上記の記事で取り上げられていた事案では、国内の親会社が国内金融機関から融資を受けた資金を米国子会社に貸し付けて、子会社側の調達金利をベースに決定した金利を適用していたようです。
これに対し税務当局は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として、「貸し手の銀行調達利率による方法」(金利スワップレートにスプレッドを加えたもの)を用いて算定した独立企業間価格と実際の貸付利息の差額を益金に算入する課税処分を行ったとのことです。
実際どれくらいの影響額があったのかについては述べられていませんが、会社側が独立企業間価格は基本三法の一つである原価基準法と同等の方法により算定できると主張したことに対し、審判所は以下の理由から課税処分を適法と判断したとのことです。
- 海外子会社は請求人以外の者から借入を行ったことがないこと
- 審判所の調査結果によっても本件貸付に関する比較対象取引を見いだすことができないこと
- 請求人からも比較対象取引の具体的な提示がないこと
上記の事案の貸付金がいつのものななのか等の詳細については述べられていませんが、最近の日本国内での調達金利は相当程度に低いはずなので、さらに低い金利で貸し付けるというような場合には、このような課税リスクがあることを認識しておく必要があります。