法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案) が公表されました
2016年11月9日にASBJより「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」が公表されました。意見募集は2017年1月10日までで、適用開始はこの基準が公表日後とされています(第18項)。
この基準は、基本的に現行の監査・保証実務委員会実務指針第63号「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取り扱い」の表現の見直しや考え方の整理等を行うものなので、内容も基本的に同様のものとなっています。したがって実務上大きな影響はないと考えられるので、適用開始が公表日後となっているようです。
ただし、追徴税額等が見込まれる場合の取扱いが新たに追加されています。例えば、公開草案の5項では追徴税額の取扱いについて以下のように記載されています。
5. 過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等について、更正等により追加で徴収される可能性が高く、当該追徴税額を合理的に見積ることができる場合、企業会計基準第 24 号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「企業会計基準第 24 号」という。)第 4 項(8)に定める誤謬に該当するときを除き、原則として、当該追徴税額を損益に計上する。なお、追徴に伴う延滞税、加算税、延滞金及び加算金については、当該追徴税額に含めて処理する。
実務担当者からすると上記の「合理的に見積もることができる場合」がどのような状況を意味するのかが気になるところですが、結論の背景(第30項)において「偶発事象を負債として認識する場合の我が国における一般的な考え方を参考に、更正等により追加で徴収される可能性が高く、当該追徴税額を合理的に見積ることができる場合、当該追徴税額を損益に計上することとした」と記載されているのみです。
そもそも誤謬に該当する場合は除かれるとすると、税務調査で税務当局と見解の相違が事項が発生し、その項目について税務当局が課税しようとしている額が概ね判明しているというようなケースにおいて負債計上を行うことは考えられます。
では、税務当局の処分に対して、会社が争う意思を有している場合はどうするのかですが、この点については第7項において以下のように規定されています。
7. 過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等について、更正等により追徴税額を納付したが、当該追徴の内容を不服として法的手段を取る場合において、還付されることが確実に見込まれ、当該還付税額を合理的に見積ることができる場合、第6 項と同様に、企業会計基準第 24 号第 4 項(8)に定める誤謬に該当するときを除き、当該還付税額を損益に計上する。
というわけで、とりあえず課税処分が一度下される可能性が高く、金額を合理的に見積もることができるのであれば、負債計上を行い、法的手段をとることで還付されることが確実に見込まれ、金額を合理的に見積もることができるのであれば未収計上(資産計上)を行うということになります。
なお、結論の背景(第31項)において「本会計基準において、追徴税額に関する負債の認識の閾値と還付税額に関する資産の認識の閾値を異なるものとしている」とされており、これは国際的な会計基準と異なると述べられています。
これはどういう意味なのかですが、この基準上は利益の計上(資産計上)は費用計上(負債計上)よりも保守的に行うべきということを意味しているものと考えられます。そうであるとすると、還付税額の計上はより確実性が高くないと認めてもらえないということになると考えられます。
還付税額の取扱いについても一応記載部分を引用しておくと以下のように記載されています。
6. 過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等について、更正等により還付されることが確実に見込まれ、当該還付税額を合理的に見積ることができる場合、企業会計基準第 24 号第 4 項(8)に定める誤謬に該当するときを除き、当該還付税額を損益に計上する。
還付税額も追徴税額も表面的な表現は類似していますが、上記の通り計上については負債計上は積極的に、資産計上は控えめにということになると思われます。