平成29年度税制改正で連結納税採用は加速する?
2016年12月22日に株式会社三井住友フィナンシャルグループが「連結納税制度の導入について」という適時開示を行いました。
「グループ経営の高度化の一環として、平成 29 年度から連結納税制度を導入することを国税庁長官宛に申請しました」というもので、当期の業績予想に変更はないとしています。この規模の会社になると元々連結納税の採用を検討しておりたまたまこのタイミングで連結納税の導入を申請したという可能性が高いですが、12月8日付けで公表された平成29年度税制改正大綱では、連結納税の導入時に影響を及ぼす部分が含まれています。
税制改正大綱の「三 法人課税」の「3 コーポレートガバナンス改革・事業再編の環境整備(3)⑦では以下のように述べられています。
非適格株式交換等に係る完全子法人等の有する資産の時価評価制度及び連結納税の開始又は連結グループへの加入に伴う資産の時価評価制度について、時価評価の対象となる資産から、帳簿価額が1,000万円未満の資産を除外する。
さて、これが何に影響するのかですが、詳解連結納税第6版・税理士法人トーマツには以下のようなQ&Aが掲載されています。なお、同書の最新版は第8版ですが、第8版にも同様のQ&Aが掲載されていました。
連結グループ内に、1年前に外部から買収した子法人があります。個々の資産の時価評価額よりも高い価額で買収していますが、時価評価の際に営業権を計上するべきでしょうか。計上した場合、迎結納税開始後の償却は可能でしょうか。
会計的な発想でいえば、自家創設のれんを計上するなんてありえないだろうという発想になりますが、上記の回答は以下のとおりとなっています。
自己創設営業権は固定資産に該当し(法2二十二、二十三、法令13八ル)、連結納税開始時に価値があるのであれば、それは「固定資産」の含み益であると考えられ、その金額が資本金等の額の2分の1または1,000万円のいずれか少ない金額以上である場合には、時価評価の対象とするべきであると考えられます(法61の11①、法令122の12①四)。ただし、自己創設営業権については法人税法上の評価方法が定められていないため、実務上は問題となります。連結納税開始時に時価評価により計上した営業権については、連結納税開始後に5年で減価償却することができます(法31①、⑤)。
法人税法上の評価方法が定められていないというののの、同書での基本的なスタンスは「営業権評価額に重要性があると予想される場合には、ゼロ評価とするのは課税上弊害があるため、何らかの別の方法で時価評価をする必要があると考えられます。」とされていますので、何らかの評価が必要というのが従来の一般的なスタンスであったと思われます。
実際、連結納税開始時に税務上ののれんを計上するため、外部に評価を依頼しているケースもありましたが、この手の評価を大手事務所に依頼すると数百万円が飛んでいくので、自己創設営業権の時価評価が必要と思われる会社が多数存在する場合には連結納税を採用するハードルは高いものであったと考えられます。
上記の書籍においても「今後、何らかの法令や通達等が設けられ、納税者の不安が払拭されることが望まれます。」と述べられていましたが、今回の税制大綱において連結納税開始時の時価評価について「帳簿価額が1,000万円未満の資産を除外する」とされましたので、そもそも帳簿価額が存在しない自己創設営業権を時価評価して計上することは不要という取扱いが明確になったと考えられます。
連結納税を担当している税理士からは、税務上のメリットがあっても加入社数が多いと個社の変更でやり直しが生じるので大変だという話を聞いたことがありますので、費用対効果をじっくり検討する必要はあると思いますが、従来に比べて連結納税を採用する上でのハードルが下がったというのは間違いなさそうです。
来年度以降、連結納税を採用する社数がどのように推移していくのかにも注目です。