監査法人の最大の経営課題は労基署対応?
電通の過労死事件以降、朝日新聞、Avexなど、次々と長時間労働で労基署の是正勧告を受けたというニュースが報道されていますが、週刊ダイヤモンド 2016年12/17号で「労基署は狙う」という特集が組まれていました。
その一部に「会計士・アナリスト・研究員エリート業界に是正勧告の嵐」というコーナーがありました。その冒頭が以下のように始まっています。
「労基署(労働基準監督署)対応が今や最大の経営課題だ。」四大監査法人の一角である新日本監査法人の幹部は深刻な面持ちで語った。
会計士は季節労働者とよく言われていましたが、四半期決算が導入されてからは、決算が終わったとおもったら次の決算が始まるというような感じなうえに、その合間にさらに期中監査やら子会社の往査やらがはいると、結局年中忙しいというのが現状ではないかと思います。さらに、金融庁やら会計士協会の指導によって、被監査会社から見れば無駄とも思える書類作りに忙殺されているように見受けられます。
そんな必要以上の書類作りがなかった頃から、繁忙期は時間外が80時間を超えることは当然のごとくあったので、毎年新たに会計士が市場に供給されているとはいえ、時間外労働を80時間以内に抑えるのは厳しいのではないかと思います。上記の記事でも「監査現場では、繁忙期のピークになると残業100時間超えは当たり前というのが実態」と述べられています。
公認会計士の業務は専門型裁量労働制の適用業務の一つではありますが、現場で残業して働く大多数のスタッフは、裁量労働者にはあたらないと考えられますので、時間規制の対象となります。そして、労働時間の上限を課せられると、「多くの企業が決算を締める3月末から決算報告書を出す5月にかけてのピークを乗り切れない」とされています。
このような状況を踏まえると、本質的には何らかわりませんが、どの監査法人でも1年単位の変形労働時間制の導入が検討されるのかもしれません。対象期間を通算して1週当たり40時間の範囲に収まるようにしなければならないもののの、繁忙期の所定労働時間を1日10時間、1週間52間の範囲で設定すると、労働時間は変わらなくても残業としてカウントされる時間数は減少することとなるためです。
もっとも、直感的に実態が把握しにくくなる上、忙しい上に残業代まで減る労働者からは不評を買うこととなると想定されるため、「慢性的な会計士不足」(本当か?)の状況では辞めた方がよいでしょう。
また、上記の記事によれば「東京労働局のある幹部は、「監査法人が今、一番問題が多い。私の知る限り相当ひどい」と問題視していることを認めている。」そうなので、きれいな監査調書を作るかのごとく形式面を取り繕うのは逆効果と思われます。このような状況から、この記事ではクライアントの選別が生じ、監査難民が生じるリスクが指摘されていますが、中小の監査法人にとってはビジネスチャンス到来といったところかもしれません。
また、「過去2年間で長時間労働や残業に関する問題があった主な企業」として、監査法人ではトーマツと新日本監査法人が取り上げられていました。トーマツは、今春、残業代の未払いが発覚し、未払分を一括で追加支給したとされています。トーマツの第49期の計算書類(平成28年9月期)を確認してみましたが、特に特別損失などにそれらしき金額は掲載されていませんので、今期分の残業代を今期中に支払ったということなのだと思われます。
過去の人件費の推移をみてみると、平成25年9月期653億円、平成26年9月664億円(5,839人)、平成27年9月期669億円(6,170人)、平成28年9月期723億円(6,495人)となっています。昨年からの増加は人数の増加による部分が大きいように思われますが、きちんと残業代を支払うようになったという影響もあるということでしょう。
次に、新日本監査法人については「監査先である東芝の不正会計問題の処理で長時間労働が発生」と記載されています。身から出た錆といえばそれまでですが、監査法人としては労働時間がどうとかこうとか言っている場合ではないのでやむを得ないと考えられます。ちなみに「社会問題化した東芝問題の影響度を鑑みて、労基署もそのときばかりは強く出なかったようだ」とされています。
なお、新日本監査法人では、「会計士を目指す試験合格前の人材を監査トレーニーという枠組みで採用し始めた。募集100人に対して1000人以上が殺到」したとされています。監査報告書にサインをする人は会計士である必要がありますが、このような取組で監査報酬が安くなるならどんどんやってもらいたいと思います。