会社が認めていない定期代が安価になるルートでの通勤途上で負債した場合、通勤災害となるか
労政時報第3924号の相談室Q&Aに「会社が認められていない、定期代が安価になるルートでの通勤途上で負傷した場合、通勤災害となるか」というQ&Aが掲載されていました。
このような質問に類似するケースとして、会社が通勤費が最も安くなるルートを指定して通勤手当を支給しているような場合に、通勤の便宜を考慮して差額を自腹で払って別のルートで通勤しているというような場合の通勤災害がどうなるのかということがあります。
この質問に対する答えとして、会社に届け出ているルートと異なるルートで通勤していると労災(通勤災害)の対象とはならないと認識している方が比較的多いように感じますが、届け出ているルートと異なるから通勤災害とは取り扱われないということではありません。
この質問の前提条件等は以下のとおりです。
この問に対して、弁護士の岡崎教行氏は以下のように回答しています。
一般人が極端な迂回であると感じるなど特段の事情がない限り、通勤災害が認定されると思われる。本ケースでは、通勤手当の支給額と実際の通勤費との差額の返還を求めることはできず、懲戒処分を科すのも困難と思われる。
まず認識しておくべきことは、そもそも労災として取り扱われるかどうかを決めるのは会社ではなく労基署です。したがって、会社の担当者にこれは労災扱いになりますか?と聞いても、通勤経路の逸脱や中断が明らかであるというようなケースでなければ、申請してみないとわからないということも多いものと考えられます。
通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。そしてこの場合の「通勤」とは就業に関し、次に掲げる移動を合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとされています。
(1)住居と就業の場所との間の往復
(2)就業の場所から他の就業の場所への移動
(3)住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
なお、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は「通勤」とはならないとされています。
ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き「通勤」となるとされています。
確かに「通勤」と認められるためには、「合理的な経路および方法」でなければなりませんが、会社が通勤経路を指定しているような場合であっても、それが唯一合理的な経路および方法であるわけではありません。
この点について、岡崎弁護士は、「通勤定期代がより安価になるように私鉄路線を乗り継いだり、路線バスを利用したりして大きく迂回するルートで通勤しているとのことですが、東京都におけるJR、地下鉄、私鉄の網の目の交通網からすれば、使用し得る複数の経路があることは十分に考えられ、極端な迂回でない限り(東京では考えにくい)、一般的には「合理的な経路および方法」に該当し、通勤災害と認められる可能性が高いと思われます。」という見解を示されています。
合理的な経路に該当しなくなるのはどこからかという点については、”一般的な人の感覚として「ここからここまでの移動で、この経路はあり得ない」と考えられる場合”に合理的な経路の要件を満たさなくなると考えられるとされています。
誤った認識で社員に説明してしまうと後々問題となることもあり得ますので、注意しましょう。