株主総会で従業員株主が複数質問するも総会決議に著しい不公正がないと判断された事案
3月決算の株主総会シーズンはまだ先ですが、T&A master No.681に「従業員株主が複数質問も総会決議に著しい不公正なし」という記事が掲載されていました。
この事案は、東証一部上場会社であるフジ・メディア・ホールディングスの株主が同社の定時株主総会において、会社が子会社(フジテレビジョン)の従業員である株主らに質問をさせて一般株主の質問時間を剥奪し、一方的に質疑を打ち切ったことが会社法831条1項1号に定める「株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき」に該当するとして、株主総会決議の取消を求めたものです。
問題となった株主総会には1405名の株主が参加しており、会社及び原告株主からそれぞれ議案が提出されているという状況にあったとのことです。
株主総会において議長(会社の代表取締役)は、「株主総会の審議方法についてすべての決議事項を上程したうえで、株主からの報告事項及び決議事項に対する質問等を受け、質疑を打ち切った後は株主からの発言を受け付けることはできないこととして、決議事項について採決する旨を提案」し、この提案は出席株主の議決権総数の過半数の賛同を得て承認可決されました。
この総会で質問を受け付けた株主数は16名で、そのうち8人が従業員株主で、この訴えをおこした株主は質疑応答の際に挙手していたものの議長から質問されず質問ができなかったとのことです。質問打ち切り後の決議において、会社提案の議案はいずれも原案どおりに可決された一方で、株主提案はすべて否決されました。
株主は訴訟において、「株主総会で8人の従業員株主がした質問は被告企業の総務部長の指示に基づきあらかじめ用意されたヤラセの質問である」と主張し、従業員株主に依頼して質問させながら、修正動議を無視して一方的に質疑を打ち切ったことにより一般株主に十分な質問をさせなかったことは、一般株主の質問権または株主権の侵害に当たると主張しました。
これに対し会社側は、従業員株主に総会での質問を依頼したのは他の株主が総会で質問をさせやすくするためで、質問を打ち切ったのは審議は十分に尽くされたものと判断したためで、質問権または株主権の侵害にはあたらないと主張しました。
裁判所は、「現場で株主総会を統括する地位にある総務部長が従業員株主に総会への出席及び質問の依頼をすること自体、株主総会の議事運営の在り方として疑義がないとはいえないものと言わざるを得ないと指摘」しました。
しかしながら、最終的に裁判所は、「質疑の打ち切りに際し一般株主の質問権又は株主権を不当に制限したものとまで断ずることはできない」として、原告株主の訴えを斥けました株主総会(東京地裁平成28年12月15日)。このような判断が下された理由としては以下の四つがあげられています。
- 質疑応答に充てられた時間が合計で約90分のうち、約53分が一般株主の質問に充てられていたことから、一般株主の質問時間が短すぎるということがないこと
- 一般株主の質問内容が時間の経過にするにつれ、決議事項と関連性を有するとはいえない事項が続くようになっていたこと
- 質問打ち切り時点において、質問を求めて挙手していた一般株主の数は出席株主の株に比して多いとはいえないこと
- 従業員株主の質問が一般株主からの質問の誘引となったという側面を否定することはできないこと
一般株主が質問しやすい雰囲気を作るために8人も質問させる必要があるかは正直疑問ではありますが、純粋な一般株主の質問時間が約50分はあったという点はやはり大きいと思います。
総会前の書面投票や会社側の安定株主によって、総会での質問がどのようなものであれ決議結果に影響はないというケースも多いのではないかと思いますが、従業員株主にヤラセ質問をさせること自体は、議事運営方法としては疑義がないないとはいえないわけですから、やらない方が無難であることは間違いないと思われます。
反対に株主の立場からすれば、ヤラセっぽい質問があれば、質問の中に従業員株主からの質問があったかを質問するというのも考えられます。