2016年3月期東芝の監査報酬は53億円-FACTA2017年4月号
東芝の粉飾決算が発覚後、いくつか興味深い記事が掲載されていましたFACTAの2017年4月号に「オリンパスに続く「粉飾見逃し」で信用失墜。膨大な訂正監査の臨時収入で危機を乗り切る。」という記事が掲載されていました。
新日本監査法人が、16年3月期の監査で、例年の監査報酬の約5倍になる53億円の監査報酬を受け取っていたことに関連するもので、「粉飾財務諸表という「欠陥商品」を世に送り出しながら、新日本はその訂正によって逆に焼け太りしていた。」と述べられています。
この記事では「もし欠陥商品だったら普通は代替品を渡して、ただにするでしょう。それなのに、間違えると儲かる、というのはおかしい」という会計評論家の意見が紹介されており、賛同を得やすい意見ではありますが、一方で昨年2月に同法人の経営専務理事に就任した大久保和孝氏の以下のコメントも取り上げられています。
「焼け太りに見えるかもしれません。しかし、東芝が正しい情報を示してウチが間違えたら欠陥商品でしょうが、東芝は虚偽の情報を出してきたのですから前提が違います。その東芝が訂正したいというのですから、追加料金をもらうのは当然です」
悪意をもって文字通りに解釈すると、「東芝が正しい情報を示して」間違えるのは論外ということになってしまいそうですが、(事後的に判断は難しいですが)意図せざる誤りなのか、意図した誤りなのかによって前提が違うというのはそのとおりだと思います。
一般的には、会社が粉飾を意図した場合でも発見するのが監査人の役割だと期待されていると思われますが、不正リスク対応基準などに対応して仕訳のテストなどは強化されているように感じますが、それでも監査人は会社が本気で欺しにきているという前提は通常とらないはずです。仮に、そのような前提をおかなければならないようなケースであれば、内部統制が有効に機能するということも期待できず、大規模な会社あればあるほど監査を受託できないという結論になるはずです。
ちなみに、FACTAの前月号(2017年3月号)には「東芝会長が「隠蔽メール」」という記事が掲載されており、この記事では、今回問題とされているウェスチングハウス(以下「WH」)の減損に関連して東芝会長の志賀重範氏が2013年3月28日に送付したとされる以下のメールの文言が掲載されていました。
「E&Yが暴れていて、手を焼いています。財務部から新日本へプレッシャーもお願いしています。東京側でのご支援も宜しくお願いします」(FACTA2017年3月号)
新日本へのプレッシャーが功を奏したのかどうかは定かではありません(同記事によると、2013年7月~9月期の連結決算でE&YはWHについて3億8500万ドルのコスト増を織り込むよう要請したのに対し、実際に織り込まれたのは6900万ドルだったとされています。)が、これが会社の体質であったというのは確かなようです。
以前の「文藝春秋」の記事では、WHの減損対策としてデロイト・トーマツグループがコンサルタントとして雇われており、親会社からコスト削減圧力がかかっていることが会計士に伝わると最悪の結果になるとの注意を受けたとするメールの内容が紹介されていました。
このようなデロイトのコンサル業務の妥当性はともかくとして、専門家集団の力を借りて、監査をパスしようとしていたという実態からも会社の体質が窺えます。
また、4月号の記事では、顕在化していないリスクとして中国の案件が取り上げられており、報じられているとおりだとすると、現任のあらた監査人がどのような対応を図るのか今後に注目です。