平成29年3月期有価証券報告書作成上の注意点
この3月期より決算短信は簡素化が図られていますが、短信簡素化の裏側には有価証券報告書の事項の追加が紐付いています。そこで改めて、平成29年3月期における有価証券報告書作成の注意点を確認してみました。なお、会計に関する部分は、基本的に四半期で適用済みのものがほとんどで、目新しいことはない(リスク分担企業年金は関係する会社はいまのところ数少ないと思われます)ので、それ以外の部分を確認します。
1.「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の記載
対処すべき課題は従来から記載事項でありましたが、決算短信において求められていた経営方針の記載内容が今回から有価証券報告書の記載事項とされているとともに経営環境の内容、対処方針等についての記載が新たに設けられることとなりました。
これらの記載は、投資家との建設的な対話に資するように、各社の状況に即して投資家が必要とするような情報を考えて記載することが期待されているとのことですが、第三号様式記載上の注意(12)が参照している第二号様式記載上の注意(32)aにおいては、「経営方針・経営戦略等を定めている場合には、当該経営方針・経営戦略等の内容を記載すること」とされています。
また、「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容を記載すること」とされています。
他社との競争があるなかで経営戦略について記載するのがよいのかはよくわかりませんが、”「経営方針」「経営戦略」という名称でなくとも、中長期的な会社の経営方針・経営戦略に相当するものとして、例えば経営理念やビジネスモデル、経営計画等を記載することが考えられる”(T&A master No.668 「有価証券報告書 作成上の留意点(平成29年3月期提出用) 公益財団法人 財務会計基準機構 企画・開示室 高野裕朗 )とされています。
経営理念までいってしまうと基本変わらないものなので投資家との対話に資するかは微妙なところですが、戦略と言うほどかっちりしたものではなく、中長期的な方向性を示すというのが個人的には無難な線ではないかと感じています。
なお、「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標」について記載する場合は、”目標の達成度合いを測定する指標、当該指標の算出方法、経営者が経営方針・経営戦略等の達成状況を判断するためになぜその指標を利用するのかについての説明等を記載することが考えられる”(同上)とされています。
次に「経営環境」ですが、上記の記事では、”例えば、企業の経営方針や対処すべき課題を決定した背景となる、自社をめぐる業界や市場の動向、経済の状況等を記載することが考えられる”とされています。こういうとなんだか大変そうですが、決算説明会の資料などでこのような環境分析が行われていることが多いように思いますので、そのようなものを有価証券報告書の記載にも織り込むことで足りるのではないかと思われます。ただし、事務作業として、パワーポイントで作るようにはいかないと思われるので、同じようなものを織り込もうとすると手間はかかりそうです。
2.「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」
ASBJの「有価証券報告書の作成要領(平成28年3月期提出用)」では、投資家は経営者の視点による経営戦略、財務業績等について経営者自らの言葉による説明を求めているものと考えられる旨が記載されていしたが、上記のとおり、「経営戦略」は「経営方針、経営戦略及び対処すべき課題等」において記載が求められることとなったことにより、平成29年3月版の作成要領ではこの点が削除されています。
個人的には従来からここに経営戦略に関する事項が記載されているというイメージはあまりありませんが、そのような記載を行っていた会社は、今回から記載場所を変更することを検討する必要がありそうです。