富士フイルムの不適切会計-処分が厳しいなと感じたけれど納得の第三者委員会報告
子会社での不適切会計発覚により決算発表を延期していた富士フイルムホールディングスが2017年6月12日に決算発表を行いました。
ニュージーランドだけでなくオーストラリアでの不適切会計も明らかになったことにより、これによる影響額が当初開示していた約220億円(損失)から375億円(損失)になった旨も合わせて開示されています。
確かに375億円という金額は大きいものの、開示された短信によれば平成29年3月期の連結売上高は2.3兆円、営業利益は1,722億円であることを勘案すれば、東芝と異なり会社全体に与える影響はそれほど大きくはないと思われます。
不適切会計の修正による影響額として大きいのは「リース取引にかかる会計処理の修正等」となっています。かなり大雑把な理解ではありますが、本来オペレーティングリースとして処理しなければならないものを日本基準でいうところのファイナンスリースとして処理し、収益認識を早めていたということが主な内容のようです。これによりリース債権が膨らんでいたものの「FXNZでは回収可能性に疑義のあるリース債権について適切な水準で貸倒引当金が計上されていなかった」(第三者委員会報告P14)とされています。
このような問題はあるものの、FXNZの売上は「2016年3月期の計算書類においては約248百万NZ(約200億円)であり、2016年3月期のFHの連結売上高の約0.8パーセントである」(FH:富士フイルムホールディングス)とされており、それほど重要性が高い子会社ではないと思われます。
しかしながら、公表された人事上の措置をみると、富士ゼロックスの代表取締役会長、代表取締役社長、代表取締役副社長、取締役専務執行役員が退任するなど、結構処分が厳しいなというのが直感的な感想でした。
人事上の措置で興味深いのは処分対象となっている常勤監査役2名のうち1名は退任(プラス報酬カット)、もう1名は報酬カットのみとなっている点です。常勤監査役がいなくなると困るということはあると思いますが、報酬カット率は2名とも同じレベルとなっていますので、責任が重い方が退任しているという訳でもなさそうです。
そんなことを思いつつ、第三者委員会報告をざっと見ていくと、「6 2016年3月期「監査リスク」対応」というタイトルが目にとまりました。
内容をみていくとなかなか刺激的なことが記載されていました。例えば、「APO T FC及びFXNZ K CFOは、2016年3月期に必ず処理をしなければ監査法人から指摘される可能性が高いものを選定し、監査対応として、取引先1の7.5百万NZドルの追加引当及びマクロ調整による22.6百万NZドル等合計35.7百万NZドルの損失処理が必要であるとAPOに報告した」と記載されています。
監査で不適切な処理が発覚する可能性が高いものを選別していくという行為は結構悪質といえます。
さらに「(2)2016年2月18日 FX w専務報告 「どこまで保守的に見てるんだ」」というものも記載されています。
2016年2月18日、APO R営業本部長及びAPO CC経理部長は、FX w専務に対して、FXNZ及びFXAについて2016年3月期に処理が必要な損失を説明した。
(中略)
FX w専務は、資料を見ると不機嫌な態度を露わにし、「どこまで保守的に見ているだ。」等と述べたうえで、損失処理額について監査で指摘されるリスクを精査してリンク分けすること等を指示した
ここまでくると、下された処分も妥当なものと納得できます。なお、「(3)2016年2月25日 FX w専務・FX y 副社長報告と損失処理額の減額指示」の最後には、「また、損失のうち約36億円については、FXAの倉庫売却(19億円)、FX韓国の工場売却(9億円)及びAPOの消耗品費評価基準変更(8億円)による利益でオフセットすることを決定した」と記載されています。
倉庫や工場売却による益出しは特に問題ないですが、「APOの消耗品費評価基準変更(8億円)」というものが、これを目的に行われたものであるとすると金額はともかくとして、質的には重要と思われます。
会長・社長にも報告がなされたとされていますが「会長・社長報告に使用された資料には、前日のFX w専務及びFX y副社長の指示により決定された処理額のみ記載されていた」とされており、実態が正しくトップまで報告されていたのかは定かではありません。
また、「9 ニュージーランドにおける報道、捜査機関(SFO)による調査」の「(3)会計監査人からの問合せと回答シナリオ」には「FX y 副社長及び FX w 専務は、FXNZの売上過大計上を認識していたのであり、虚偽であることを認識しながら回答を指示したものである。」と記載されています。
富士フイルムホールディングスの会計監査人は平成29年3月期に新日本監査法人からあずさ監査法人に変更になっているわけですが、このような報告を受けて、あずさ監査法人は会計監査人を継続して受託するのかは見物です。小さい会社であれば、ほぼ間違いなく辞任しているものと推測されますが、果たしたどのような対応をとるのでしょうか。
普段、コピーやプリンターを多用している者としてはあまり感じないのですが、様々なものの電子化が進む中で、複合機やプリンターを主に取り扱う富士ゼロックスも厳しい環境におかれていることが浮き彫りになったということなのかもしれません。