特例有限会社から大会社になった場合の監査役に業務監査まで必要か?
現実問題としてあまり問題となることはないと思いますが、T&A master No.696で経営破綻した安愚楽牧場の出資者である原告が会社や元役員らに対し損害賠償を行った裁判に関する記事が掲載されていました。
この事案では、元税務職員の税理士が、平成21年9月5日に安愚楽牧場の監査役に就任しましたが、その際に、安愚楽牧場の定款には、監査役を置くこと及び監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の定めを置いており、監査の範囲が会計監査に限定される監査役に就任すること了解したとのこです。
ところが、安愚楽牧場は監査役就任よりも前の平成21年4月1日に商号変更を行ったことにより、特例有限会社から会社法の適用される株式会社となっており、その時点で負債が200億円以上であったため会社法上の大会社となっていましたが会計監査人は設置されていませんでした。
特例有限会社は、平成18年5月1日の会社法施行時点で有限会社であった会社で、商号変更を行っていない会社のことです。会社法上の整理では、特例有限会社の株式会社と位置付けられていますが、経過措置によって、従来の有限会社の取り扱いが継続的に適用されています。例えば、取締役や監査役の任期の定めがなかったり、決算公告も不要とされています。さらに、会社法上の大会社に該当しても会計監査人を設置する必要はありません。
上記の事案では、原告は、監査役は業務監査も行うべきで、適切な業務監査が実施されていれば、近い将来に破綻必至であることが認識できたにもかかわらず、取締役による新規募集を止める注意義務及び任務を怠ったなどと主張しました。
地裁では、会計帳簿を調査するときは会計監査の場合より厳密な調査を行うべき注記義務及び任務があったといえるとして、元監査役についても約7,000万円の範囲で損害賠償の連帯責任を負うとの判決が下されました。
一方、高裁では、監査役は会計限定監査役として就任する旨の監査役就任契約に基づいて就任したにすぎないため、会計監査の職責を負うものの、当然には業務監査の職責を負うわけではないとし、原審の判決を取り消したとのことです。
業務監査を行うことを予定して選任されたのではない会計限定監査役に業務監査の職責を負わせることは会社にとって不足であるばかりでなく、業務監査の職責を果たさない場合の法的責任が生じることになるのは酷と判断したためとのことです。
これは確かにそのとおりでありますが、「監査役が行う業務監査とは、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかの監査であるところ、監査役は、取締役や経理職員から事業概況の聞き取り調査をし、会計監査人による監査を受けるよう指摘するなどしていた」とされていることからすると、会社法上、本来は業務監査を行うべきことを把握していたのではないかとも思われます。
であるとすれば、気づいた時点で辞任するという選択をしなかったことに落ち度はないのかという点は気になります。