「採用選考ではない」と明言しつつ、事実上選考の場として懇談会を開催することは問題か?
労政時報第3935号の相談室Q&Aに面白い質問がありました。それは、学生に対して「選考ではない」と明言して開催している「社員懇談会」が、実際は懇談会での謝意から見た評価が、書類選考の重要な要素の一つとなっており、このような状況について社内には対外的なアナウンスとは全く異なる点を危惧する声があがっているが、このような懇談会を開催することは法的に問題はないかというものです。
自分が学生の立場であれば、会社から「選考ではない」と言われていても、それを鵜呑みにするほどお人好しではないので、後から実際は選考に使っていたといわれても、やっぱりな位にしか感じないものの、上記のような状況が決して褒められたものではなく、少なくとも倫理的には問題があるといえます。
しかしながら、「法的に問題がないか」となると、法的に問題となることはないと考えましたが、この質問の答えに対する弁護士の見解は以下のとおりでした。
会社側に採用の自由があるが、採用募集の学生に対して「選考ではない」と明言している以上、そこでの評価を選考の重要な要素とするのは、法的に問題がると言わざるを得ない。
「法的に問題がある」という回答に興味をひかれて、どの法律で問題となるのだろうと解説を読んでいくと、あまり明確な答えは記載されていませんでしたが、採用自由の原則と例外について以下のような内容が記載されていました。
すなわち、会社側には採用自由(選択の自由、調査の自由)の原則があるものの、権利の濫用は許されず、例えば、使用者が応募者の同意を得ないで行ったB型肝炎ウィルス感染検査を行った事件では、応募者のプライバシー侵害の違法行為として、使用者側に慰謝料の支払い義務を認めているように、私法上の一般原則として権利の濫用は許されないと考えられるというものです。
そして、上記のように「採用の自由といっても、それには一定の制限が突くことも明らかであることからすれば、御質問のような会社の採用選考の方法は法的に問題を含む者と言わざるを得ない」とし、「採用選考を行う場面といえども、意識的に相手(学生)を誤解させてまで行う自由はない」とされています。
要は、権利濫用や信義則違反という一般原則の点から問題があるということと考えられます。
では、法的に問題があるとして、その場合、企業側にどのような責任が生じるかですが、この点については「会社の側に社員懇談会での評価を基に採用しなかった学生を採用しなければならなくなるといった法的効果までは考えにくいと思われますが、慰謝料なり一定の損害賠償義務は負うことが考えられます」とされています。