ヤフー・IDCF事件に続き法人税法132条の2による否認事例が訴訟になっているようです
T&A master No.703に「ヤフー・IDCFに続く否認事例が訴訟に」という記事が掲載されていました。
この事案は、同誌No.695の”行為計算否認、ヤフーおよびIBM判決の影響鮮明”行為計算否認”という記事で「国税不服審判所」で争われていると照会されていた事案が訴訟に発展したものです。
冒頭の記事によると、訴訟となっているのは「東証一部上場の自動車部品メーカである可能性が高い」としたうえで、「同社の平成27年度第1四半期報告書(4月~6月)には約5億円過年度法人税等が計上されている」とされています。
この条件を満たす会社を検索してみると、ピストンリングなどを製造しているTPR株式会社が該当しました。同社の平成27年度第1四半期報告書では505百万円が過年度法人税等として計上されています。
ネットの記事を検索してみると、2016年8月30日付の毎日新聞の記事がヒットしました。この記事では以下のように報道されています。
TPRは2014年3月期までの5年間について税務調査を受けた。TPRは納税を済ませた上、処分を不服として国税不服審判所に異議を申し立てたという。関係者によると、TPRは子会社だったアルミホイール製造の「テーピアルテック」(岡山県津山市)を10年3月に「アルミ商品事業の強化とグループ経営の効率化」を目的に吸収合併した後、テーピ社が抱えていた繰越欠損金約12億円を2年間にわたり損金に算入し、利益と相殺していた。
一方で吸収合併直前の10年2月、欠損金を切り離す形で同じ名前の子会社を新たに設立した。その子会社の社名を「TPRアルテック」に変更し、本店所在地も、合併によって解散したテーピ社があった場所に移した。TPRアルテック社は社屋や設備などをTPRから借りて、テーピ社の事業を継続した。
こうした一連の経緯について、東京国税局は「企業再編の実態を伴っておらず、納税額を不当に圧縮させるのが目的だった」などと判断したとみられる。
企業再編の際は企業側が国税当局に税制上の問題が生じないかどうか事前照会するケースが多いが、TPRは照会していなかったとみられる。TPR側は取材に対し「租税回避の意図はない」としている
まとめると、繰越欠損金を抱える子会社を吸収合併したものの、一方で当該子会社の事業は、新たに設立した子会社が継続したということです。しかも、新子会社の名称は、実質的に吸収合併された子会社の名称と同一視されうる名称で、住所や設備もそのまま利用したとされています。上記の記事には記載されていませんが、T&A master No.695の記事によると役員も同一であったそうです。
ヤフー・IDCF事件は、「みなし共同事業要件」の「特定役員引継要件(法令112条③五)を満たさなかったケースですが、上記は「支配関係」が問題となっています。
国税不服審判所は、「ヤフー・IDCF事件の最高裁判決で示された「税法の濫用=租税回避」という”濫用基準を踏襲し、課税処分を支持」しており、訴訟へと発展したようです。
『審査請求の際には、納税者サイドからは「債務超過に陥ることが想定されていた子会社の救済と損益改善という事業目的があった」などの主張がなされた』(T&A master No.703)とのことですが、上記の状況だけから判断すると欠損金を引き継ぐためだけのスキームと判断されても仕方がないように思われます。
5億円と金額が大きいので、簡単にはあきらめられないということかもしれませんが、果たして納税者はどのような主張をするのかは注目です。なお、既に4回の弁論が済んでおり、来年にも判決がでる見込みとされています。