弁当販売チェーン店の店長の管理監督者性が争われた事案
労政時報3934号の労働判例SELRECTに平成29年2月17日静岡地裁で判決が下されたプレナス事件が取り上げられていました。
この事案は、P社が運営する弁当販売店で店長を務めていたXが、時間外・休日労働に対する割増賃金が未払いであるとして、P社に対し、割増賃金及び労基法114条に基づく付加金の請求及び長時間労働により外傷後ストレス障害を発症したとして損害賠償請求を行ったものです。
結論としては、Xの管理監督性は否定され、P社に対して割増賃金約119万円及びその5割相当の付加金の支払が命じられましたが、損害賠償請求についてはXの法定外労働時間がおおむね月40時間~70時間であったことなどから、P社の安全配慮義務違反は認められず、請求が棄却されました。
管理監督者性が否定されるというのは珍しいことではありませんが、個人的には一部厳しいなと思う判断のポイントもありましたので、以下で確認していきます。
裁判所は、管理監督に該当するか否かについては、①職務の内容、権限、職責および勤務実態等に照らし、経営上重要な事項の決定等に関与していたか、②労働時間に関する裁量があったか、③賃金等の待遇等、その職務内容や職責等にふさわしい賃金等の待遇を受けていたかといった事情を総合的に考慮して判断するのが相当であると解されるとし、それぞれ以下のとおり判断しました。
まずXの職務内容、権限等については、以下のとおり判断されています。
Xは、クルーのシフトを作成したり、店舗の売り上げ、廃棄ロスの確認をしたり、その内容をP社本部に報告するなど、責任者として、店舗の運営、管理業務を行っていた。しかし、クルーの採用権限は有していたものの、募集については少なくとも本部のスーパーバイザーの決裁が必要であり、また、クルーの時給を決定する権限も有していなかった。
以上のような職務内容および権限からただちにXが管理監督者に当たると言うことはできない。
上記で、募集権限がないことと時給の決定権限がないことのどちらの重要度が高いのかは定かではありませんが、給料の決定権限を有していないと経営上重要な事項の決定等に関与していたとは直ちに認められず、他の要素で総合判断ということになると、ほとんどの場合はそのようになるのではないでしょうか。
次に労働時間に関する裁量ですが、この点については以下のとおり判断されています。
Xは、自ら出退勤時間、休憩時間等を決定する権限を有しており、休日についても自ら決定する権限を有していた。もっとも、Xは、シフトを組む際、クルーの予定によって、X自信がシフトインしなければならないことがあったため、公休予定日に休みを取得できず、別の日に振り替えることが複数回あった。よって、Xは、まったくの自由裁量で労働時間を決めることができたとはいえず、クルーのシフト次第では、労働時間が拘束されうる立場にあった。
この判断は、事業の運営に影響があっても休むことができなければ、労基法の管理監督者ではないといっているように思われ、判断が厳しいと思います。仮に募集権限を有していたら、自らがシフトインしなくてよいようにクルーを採用できていたとも考えられるものの、私見では上記のような対応は管理監督者であればこそ普通なのではないかと考えます。
最後に賃金等の待遇ですが、Xの年収はおよそ326万円程度であり、これはP社本部の非管理監督者の平均年収と大きく変わるものでなく、賃金センサスにおける平均年収466万500円より大きく下回る。そうすると、Xは、管理監督者に応じた高い待遇を受けていたとは認めることはできない。
賃金センサスと比較して給料が低いと管理監督者性が否定されるとなると、給料が低い会社には管理監督者はいないということになってしまうので、必ずしも妥当とは考えられませんが、本部の非管理監督者との平均年収と大きく変わるものではないという点からは、管理監督社性を否定されても仕方がないと思われます。
判決では上記三つの観点を総合的に判断して、XがP社における管理監督者であったとは認めることができないとされていますが、三つ目の賃金等の待遇の妥当性の影響は大きかったのではないかと考えます。
なお、労政時報では「プレナス事件」とされていますが、弁当販売チェーンとのことなので、このプレナスは上場企業のプレナスなのかが気になります。そうだとすると他の店舗の店長への波及効果が気になりますが、2月に判決が出ているので、決算数値には折り込み済みですかね。