所得拡大促進税制の当初申告要件は必要と高裁判決
法人税法の当初申告要件は平成23年12月改正で廃止されていますが、租税特別措置法については、基本的に当初申告要件が引き続き付されています。このような中、所得税拡大促進税制の当初申告要件を巡って争われた訴訟の高裁判決が2017年1月に下されたという記事が税務通信3471号の「裁判例・裁決例」に掲載されていました。
この事案では、確定申告において所得拡大促進税制の適用を失念した法人が、所轄税務署長に対して控除明細書を添付して更正請求書を提出して更正の請求を行ったものの認められなかったため納税者が訴訟をおこしたというものです。
この裁判では租税特別措置法第42条の12の4第4項で定められている「当該確定申告書等」の解釈について争われたとされています。租税特別措置法第42条の12の4第4項では以下のように定められています。
第一項の規定は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により控除される金額は、当該確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする。
上記1行目に「確定申告書等、修正申告書又は更正請求書」とあるので、後半の「この場合において、同項の規定により控除される金額は、当該確定申告書等に添付された」における「当該確定申告書等」には「更正請求書」も含まれるのではないかという主張のようで、この条文のみの書き方からすれば確かに一理あります。
しかしながら、租税特別措置法2条2項27号において「確定申告書等」は以下のように定義されています。
法人税法第二条第三十号 に規定する中間申告書で同法第七十二条第一項 各号に掲げる事項を記載したもの及び同法第百四十四条の四第一項 各号又は第二項 各号に掲げる事項を記載したもの並びに同法第二条第三十一号 に規定する確定申告書をいう。
つまり、「確定申告書等」は中間申告書または確定申告書を意味すると定義されています。したがって、この定義からすれば租税特別措置法第42条の12の4第4項の「当該確定申告書等」の「確定申告書等」も中間申告書または確定申告書を意味すると考えるのが自然です(そうでなければ定義の意味がなくなる)。
東京地裁、東京高裁も定義のとおりに解釈し、租税特別措置法第42条の12の4第4項前半において「修正申告書又は更正請求書」が記載されているのは、確定申告書等に添付した控除明細書に記載された雇用者給与等支給増加額以外の事項で確定申告書等に記載された金額に変動がある場合に、その事項について修正申告や更正の請求ができることを規定したものとの解釈を示したとのことです。
納税者の立場からすると、単なる手続きだけの話で実質的な要件を満たしているのであれば、後からでも認めてくれてもよいだろうという気持ちはよく分かります。当該納税者は、高裁判決を不服として最高裁に上告したとのことですが、そうはいっても条文解釈として争っても勝ち目は薄いと思われます。
諦めるに諦めきれない金額だったということかもしれませね。