株式報酬の社会保険料はどうなる?
経済産業省は2017年4月に公表した『「攻めの経営」を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引~』を9月29日に更新しました。これは平成29年度税制改正を踏まえたもので、Q&A全72問のうち16問に新たな内容が追加されています。
改正されたということでパラパラとみていて目についたのがQ13の「株式報酬を付与する場合、社会保険料の算定の対象になりますか。」というものです。これは4月に公表された時点からあったものでしたが、すっかり頭から抜けていたので備忘もかねて取り上げておこうと思います。
ストック・オプションについては、このQ&Aにも記載してあるとおり「自社株をあらかじめ定められた権利行使価格で購入する権利を付与するものであり、権利の付与自体は社会保険料を徴収すべき報酬に該当しないとされています。また、権利行使による株式取得も社会保険料の対象とならない」とされています。
また、労働基準法との関係においても、平成9.6.1基発第412号「改正商法に係るストツク・オプションの取扱いについて」において、「ストック・オプション制度では、権利付与を受けた労働者が権利行使を行うか否か、また権利行使するとした場合において、その時期や株式売却時期をいつにするかを労働者が決定するものとしていることから、この制度から得られる利益は、それが発生する時期及び額ともに労働者の判断に委ねられているため、労働の対償ではなく、労働基準法第11条の賃金には当たらない」とされています。
ストック・オプションについては上記のような取扱になっているので、株式報酬についても社会保険料の対象とはならないのではないかと考えてしまいそうですが、株式報酬については社会保険料の対象となるとのことなので注意が必要です。
すなわち経産省のQ13に対する回答では以下のように記載されています
健康保険・厚生年金保険の保険料の額や保険給付の額の計算の基礎となる「標準賞与額」の範囲は、賃金、給料、俸給、手当、賞与、その他名称を問わず、被保険者が労務の対償として受けるすべてのもののうち年 3 回以下のもの(ただし、大入り袋や見舞金のような臨時に受けるものを除く)とされており、役員に対する株式報酬についても、原則として標準賞与額に含まれるものと解されています。
なお、ここでいう「株式報酬」とは、事前交付型リストリクテッド・ストック、事後交付型リストリクテッド・ストック、パフォーマンスシェアを意味しています(Q6)。
賞与ということになると健康保険では年度累計の上限額が573万円、厚生年金では1ヵ月当たりの上限額が150万円と、標準報酬月額の上限と比較すると上限額が大きく設定されていますので、社会保険料の本人負担額も大きくなる可能性があります(健康保険と厚生年金保険の本人負担料率を14%とすると最大101万円程度)。
どのタイミングで報酬として社会保険料が徴収されるのかについては、上記Q13では特に言及されていませんが、リストリクテッド・ストックにしてもパフォーマンスシェアについても金銭債権を付与して、それを現物出資するという仕組みを前提としているため、普通に考えると金銭債権を付与したタイミングで報酬があったものとして社会保険料を徴収することとなるのではないかと考えられます。
そのように考えると、事前交付型のリストリクテッド・ストックでは、交付時点で報酬として社会保険料の控除が必要となると考えられます。条件が継続勤務だけであれば募集される可能性はそれほど高くありませんが、業績条件が付されている場合には最終的に没取されてしまう可能性もあるという点を考慮すると、場合によっては社会保険料の負担だけが残るということもありえます。
ストック・オプションの場合は、最終的に行使できるかどうかわからないことも報酬から除外されている理由の1つのようですので、そういった意味では、「株式報酬が「標準賞与額」に該当するとしても、株式が処分可能な状態になった時点で報酬として取り扱われることになるのかもしれません(上記回答でも「原則として」となっている)が、そもそもストック・オプションと異なる取扱になっていることからするとやはり金銭債権付与時に報酬として取り扱われると考える方が自然だと考えられます。
株式報酬の社会保険料については、あまり話題になっていないように思いますが、実務上どのように処理されているのか非常に気になるところです。