過度の私的なチャットに要した時間も労働時間?
顧客情報の持出の助言については、原告が経理課長という情報の持出を防止すべき立場にあるにもかかわらず、就業規則に反することを知りながら「今日は徹夜してでも被告の顧客情報データを持ち出すべきであるとの意見を述べた」とされています。
信用毀損については、経理課長という立場でありながら、会社について「確実に潰れるから」、「2月末に危機がきて、、8 月末でアウト」、「○○ちゃんから借りないとつぶれますね」、「一般企業としてはもう死に体です。今の数字」、「どう考えても資金不足になり倒産ですね。外部資金入れない限り」、「すぐ減給ですから。確実にブラックです」などとチャットで発言したとされています。
誹謗中傷については、直属の部下である B について、「○○○はバカなの」、「○○○は極度に無能です」、「犬と一緒なんだよ」、「早く踏み切りで無残に轢死すればいいと思う、日々です」、「生きる価値のない命とはあれのことだね」、「害虫レベルだな。。」、「存在自体が害毒」、「存在が迷惑だから死んだほうがいいんだよ」、「だからこのバカは絶対にうつ病ならない」、「○○○○」、「死ね」、「パワハラいじめしたいよー」、「健常者ではない」、「大人の発達障害です」、「うちの発達障害も早く交通事故で死んでほしい」「知的に問題ある以外ありえない。」などとチャットで誹謗中傷を行ったとされています。
セクハラについては、会社の女性従業員 2 名(36 歳、25 歳)について、「○○○知らないところで。。。ユルくなって、裸でグチャグチャになってる」、「○○○」等と発言したものとされています。
そして、「本件チャットの態様、悪質性の程度、本件チャットにより侵害された企業秩序に対する影響に加え、被告から、本件チャットについて、弁明の機会を与えられた際、原告は、本件チャットのやり取り自体を全部否定していたことからすれば、被告において、原告は本件懲戒事由を真摯に反省しておらず、原告に対する注意指導を通してその業務態度を改善させていくことが困難であると判断したこともやむを得ないというべきである」とされています。
判決文ではこの他、他の従業員に対する処分との均衡などについてもきちんと検討されているわけですが、会社のおこなった懲戒解雇は有効と判断されました。
しかしながら、前述の結論でも書いたとおり、チャットに費やした時間そのものは労働時間と取り扱われました。
理由を要約すると以下のようになります。
「社内では、私語として許容される範囲のチャットや業務遂行と並行して行っているチャットとが渾然一体となっている面があり、使用者の指揮命令下から離脱しているとはいえないから、チャットの私的利用を行っていた時間は労働基準法上の労働時間とみるべきである。そのため、所定労働時間内におけるチャット時間を抽出して、居残り残業時間から所定労働時間内のチャット時間を控除することはできない。」(経団連労働法制本部 最近の主要労働判例・命令(2017年6月号)
より具体的には、判決文の中で以下のように述べられています。
「所定労働時間(午前9時から午後6時までの所定就業時間から1時間の休憩時間を除いた時間)内に行われたものについては、労働契約上、労働者が労働義務を負う時間内に、自席のパソコンで行われたものであること、被告は、本件チャット問題が発覚するまでの間、原告が自席で労務の提供をしているものと認識しており、原告の直属の上司であるCとの間でも私的チャットがなされているが、原告の業務態度に問題がある等として、被告が原告を注意指導したことは一切なかったこと、本件チャットは、基本的に社外の人間との間ではなく、会社内の同僚や上司との間で行われたものであること、業務に無関係なチャット、業務に無関係とまではいえないチャット、私語として社会通念上許容される範囲のチャット及び業務遂行と並行してなされているチャットが渾然一体となっている面があり、明らかに業務と関係のない内容のチャットだけを長時間に亘って行っていた時間を特定することが困難であることがそれぞれ認められ、これらを併せ考慮すれば、所定労働時間内の労働については、いずれも使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、労基法上の労働時間に当たると認められる。」
また、所定労働時間外のものについては、以下のように述べられています。
「本件タイムカードによれば、原告は終業時刻(午後6時)よりも遅い退勤が常態化していることが認められるところ、被告において、原告が残業する場合、所属長(部長)への申請が不要という扱いをしており(弁論の全趣旨)、残業することについて、何ら異議を述べていないことからすれば、居残り残業時間については、黙示の指揮命令に基づく時間外労働にあたると認められる。そこで、居残り残業時間から、この時間になされたチャットに要した時間を控除するべきか問題となる。」としたうえで、所定労働時間内に行われたチャットと状況は同じであるため、労働時間から控除できないと判断だされています。
さらにノーワークノーペイとの関係では「ノーワークノーペイの原則との関係で問題を生じうるが、チャットの私的利用は、使用者から貸与された自席のパソコンにおいて、離席せずに行われていることからすると、無断での私用外出などとは異なり、使用者において、業務連絡に用いている社内チャットの運用が適正になされるように、適切に業務命令権を行使することができたにもかかわらず、これを行使しなかった結果と言わざるを得ない(被告代表者も「管理が甘かった」(同18 頁及び 19 頁)旨述べている。)。」とされています。
労務管理をきっちりしないと、労働時間の争いで使用者に勝ち目は薄いということを改めて認識させられる事案です。後で困ることがないように注意や指導等の記録もきっちりとっておくように注意しましょう。