長期のインセンティブが弱いRS等に多くの反対票
CGコードの要請もあり、RS等の導入が多くの会社で見られるようになっていますが、平成30年6月の株主総会で、中長期インセンティブとしての機能に疑念が持たれる株式報酬に投資家から多くの反対票が投じられたという旨の記事がT&A master No.757に掲載されていました。
長期的なインセンティブとして機能しないと考えられる株式報酬に対して、反対票が多くなるというのは予想できますが、この記事で取り上げられていた事例2件の賛成率はいずれも60%台とされています。
一つ目の事例は、東証一部上場のメーカーで、「社内取締役を対象に、譲渡制限期間が1~5年の譲渡制限付株式の付与議案を上程したところ、賛成率は64.89%という低率にとどまった」とされています。
同社のROEは5.43%で、「(伊藤レポートの求める8%を下回っており、決して高くないものの)目を覆うほどの数字でもない」とされています。このような状況で多くの反対票が投じられた原因としては、「譲渡制限の期間が最短で1年となり得ることから『長期インセンティブとして不適切』と判断されたことが原因である可能性が高い」と述べられています。
譲渡制限期間が最短で1年になる条件が何であるのかについては触れられていなかったので、確認みたところ、賛成率が64.89%になった議案は、「監査等委員である取締役(社外取締役を除く。)に対する譲渡制限付株式の付与のための報酬額及び内容決定の件」でした。
同総会で付議されていた「取締役(監査等委員である取締役を除く。)に対する譲渡制限付株式の付与のための報酬額及び内容決定の件」の賛成率を確認してみたところ、69.70%と上記議案よりも約5ポイント賛成率が高くなっていますが、やはり賛成率は高くありません。
譲渡制限期間については、原則中期経営計画に合わせて3年とされていますが、本事業年度はは中期経営計画の最終年度のため1年とされています。業績連動型譲渡制限付株式については、経営指標(売上高、営業利益率、総資産利敵率(ROA)、自己資本利益率(ROE))で評価するとされていますが、具体的な指標の数値は明示されていません。
付与対象となっている取締役(監査等委員をノ即)の選任議案自体は各自95%以上の賛成率となっていますので、利益の額がいくら以上で何%解除というような明確な指標が示されていないことが賛成率が低かった要因ではないかと推測されます。
もう一つ示されていたのが、オンラインショッピングサイトを運営する東証一部上場企業の平成30年6月総会で付議したストックオプションの発行議案です。この議案は賛成率が63.11%と低率にとどまっているとされています。
こちらは、業務執行取締役を対象としているが、権利行使期間が「発行日の翌日から20年間」とされており、「この点が長期的インセンティブとして不適切と判断されたものとみられる」と述べられています。また、同社のストックオプションは希薄化率が発行済み株式総数の9.95%と高めだったことも、低賛成率の一因になったと考えられるとされています。
CGコード補充原則1-1①では「取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべきである」とされており、これに対してどのような対応が図られるのかについても注目です。