CGSガイドラインの改訂-後継者計画等
2018年9月28日に経済産業省はコーポレート・ガバナンス・システムに関するガイドライン(以下「CGSガイドライン」)の改訂を公表しました。
後継者計画に関する記載が全面的に改訂されているとのことなので、内容を確認しました。
後継者計画については、CGSガイドラインに別紙4として「社長・CEO の後継者計画の策定・運用の視点」が新設されました。
まず、総論的な記載としては、後継者計画は中長期的に後継者を選抜・育成する取り組みではあるものの、急遽社長やCEOの交代が必要となることもあるので、エマージェンシープランを策定しておくことも必要であると考えられるというようなことが記載されています。
また、後継者の育成については「企業ごとに様々な考え方があり得ると考えらる」としつつも、大きく二つの段階に分けられる」として以下の二つが示されています。
興味深いのは「後者のような育成の取組は、多くの上場企業において、管理職以下の人材育成施策として人事部門が主体となって行われているものと考えられる。こうした既存の取組が社長・CEO の後継者計画の実効性を支えるものとして整合的なものになっているかどうかといった観点から、指名委員会において必要に応じて報告を受ける等して適切に監督していくことが望ましい」とあえて記載されている点です。
人材育成施策は確かに人事部門が主体となって計画・運営されていることが多いと思いますが、社長・CEO の後継者という観点とは整合的でないことが多いということだと思われます。
そして、具体的には「後継者計画の策定・運用に取り組む際の 7 つの基本ステップ」なるものが示されています。
ステップ1:後継者計画のロードマップの立案
ステップ2:「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定
ステップ3:後継者候補の選出
ステップ4:育成計画の策定・実施
ステップ5:後継者候補の評価・絞り込み・入れ替え
ステップ6:最終候補者に対する評価と後継者の指名
ステップ7:指名後のサポート
上記はあくまで基本ステップであり、各社が自社の状況に応じて「試行錯誤と工夫を重ねること」が重要であるとされています。例えば、「企業の置かれた状況によっては、外部人材の招聘を検討することが適切な場合もあり得る」とも述べられています。
各ステップについて記載されてい内容のポイントと思われる点は以下の通りです。
ステップ 1:後継者計画のロードマップの立案
中長期の時間軸で立案が基本となるものの、不測の事態に対応可能なように、様々なシナリオ、複数の時間軸での立案が望ましい。ロードマップは「社長・CEO を中心として社内者が原案を作り、指名委員会において議論し、決定すること(必要に応じて取締役会にも報告すること)が考えられる。」とされています。
ステップ 2:「あるべき社長・CEO 像」と評価基準の策定
後継者候補の選出・育成・指名に客観性を確保し、取締役会や指名委員会による監督を実効的なものにするためには客観的な評価基準が共有されていることが前提であり、そのためには文書化することを検討すべきである。また、基準は定期的に見直すことが望ましく、「あるべき社長・CEO 像」については、その重要性に鑑み、取締役会に報告し、その了解を得ることが望ましいとされています。
ステップ 3:後継者候補の選出
候補者の人数は会社規模や取り組み期間によって様々としつつも、「通常、指名委員会が個別の候補者をバイネームで把握・評価できる規模は、数名から数十名程度と考えられる」とされています。また、環境変化に対応可能なように、多様な人材を後継者候補として選出しておくことも有益とされています。
ステップ 4:育成計画の策定・実施
「社長・CEO の就任から交代までの基本サイクルを超えて長期的な時間軸で後継者計画に取り組む場合、将来有望な人材を若手の段階から早期に選抜し、将来経営を担う可能性も視野に入れて、早くから責任あるポジションを経験させたり、集団研修や経営塾などの Off-JT も集中的に実施するなど、時間をかけて育成することにより、育成の効果を高めることが可能となる」と述べられています。
ステップ 5:後継者候補の評価、絞込み・入替え~ステップ 7:指名後のサポート
これといったことは記載されていませんが、ステップ5の評価について「企業で取り組まれている評価方法の一例」として以下が記載されています。
本人との面談
360 度評価(上司、同僚や部下等へのリファレンスチェック)
従業員の意識調査(部署ごとに集計してマネジメント課題を把握)
心理学的手法を用いた適性テスト
評価の補助や客観性の担保を目的として、外部専門家を活用している企業も存在する
最後に、「特殊な企業における後継者計画の在り方」として述べられていることを紹介しておきます。
ここでいう特殊な企業として取り上げられているのは「企業の経営がカリスマ経営者の能力と手腕に依存し、経営トップの交代が当面予定されていないような企業」(おそらくソフトバンクとかファーストリテイリングとか日本電産など)と「社長・CEO を含めた経営陣が創業家関係者から輩出されることが慣例になっているオーナー企業」です。
このような企業ではどうするのかですが、「他社と同じような後継者計画を形だけ作っても実際には機能しにくく、むしろ自社の特殊な事情を認識した上で、最適なタイミングで最適な後継者に経営トップを交代するという目的を実現するために、現実的にとり得る対応は何かを議論することが重要であると思われる」と述べられています。要はとりえず議論をして下さいということのようです。敢えて書くまでもない内容とも思えますが、カリスマ経営者の企業とかオーナー企業では、後継者計画をどうしましょうというのすら言いだしにくいと思いますので、議論する議題とするのが最初の大きな一歩なのだろうと思います。