減損検討に用いられる税前割引率はどうやって計算?
2018年6月にコーポレートガバナンスコードが改訂され、原則5-2において「経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを適格に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な考えを示すとともに・・・」(太字部分が改訂で追加)とされたことなどもあり、なんとなくROE等の目標値を定めていた会社では「自社の資本コスト」について考えなければならなくなっているようです。
資本コストについては、自己資本と他人資本のコストを株主資本比率と負債比率で加重平均して求められる加重平均資本コスト(WACC)が用いられることが多いと思われます。
上記のうち直感的に理解しにくいのが自己資本コストですが、その算定方法については、企業価値評価の解説書等において、CAPMによる算定式が示されていることが多く、実務上も広く使われている方法だと思われます。
計算式では以下のようになります。
自己資本コスト=リスクフリーレート+β×マーケットリスクプレミアム
そして、マーケットリスクプレミアムは株式市場の期待収益率とリスクフリーレートの差とされていますので、
自己資本コスト=リスクフリーレート+β×(株式市場の期待収益率-リスクフリーレート)
で計算されるということになります。
そして、WACC(加重平均資本コスト)は以下のように求められます。
WACC=負債コスト×(1-税率)×{D/(D+E)} + 自己資本コスト×{D/(D+E)E}
詳細な説明はきちんとした解説書を参照して頂くとして、負債コストは支払利息が損金算入できるため、税率を加味する必要があるということになります。
さて、前置きが長くなりましたが、固定資産の減損検討にあたり、使用価値算出に用いられる割引率について、減損会計適用指針45項では以下の四つが示されています。
- 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率
- 当該企業に要求さえる資本コスト。資本コストは借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である。
- 当該資産又は資産グループに類似した資産又は資産グループに固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率
- 当該資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積もられる利率
適用指針上は上記の四つを総合的に勘案することとされていますが、実務上は加重平均資本コストが用いられることが多いのではないかと思われます。
そこで、前述のWACCが出てくるわけですが、ついうっかりやってしまう可能性があるのが、上記の計算式で計算されたWACCを使用価値算出の割引率としてしまうということです。
使用価値を算出するベースとなる将来CFは税前で見積もるため、割引率についても、一般的な教科書に出てくる税引後のWACCではなく、税引前のWACCを算出を用いなければらないということになります(減損適用指針43項)。
将来CFの見積もりが税前なので、WACCも税前にしなければならないというのは、理解できると思いますが、問題は、税前のWACCはどう計算するのかです。手元の解説書でも、税前の割引率を用いる必要があると記載されているのみで、計算式が示されていませんでした。
ただ、経営財務3358号「厳選!現場からの緊急相談Q&A 第51回 将来キャッシュ・フロー等の「割引率」の決定」の中で、税引前の加重資本平均資本コストは以下の算式で算出されています。
税引前の加重平均資本コスト=借入資本コスト×40%+(自己資本コスト×60%)÷(1-実効税率)
割合等は仮定の数値なので特に意味はありませんが、自己資本コストについても(1-実効税率)で割り返してやればよいということのようです。株主資本コストも税引後の残余から捻出されるものであるので、(1-実効税率)で割り返せばよいということだと推測されます。(追記:上記の計算式が適用指針の設例6に示されているとのコメントを頂きました。設例6において上記の算式で税前のWACCが計算されていますので、実務上はこれで割り切って問題はないようです。)
IFRSでは以下のよう述べられていますが、これを考えると実務が進まなそうなので、上記の算式で割り切りましょう。
使用価値を算定する場合の,税引前の割引率と税引後の割引率
(i)標準税率により税引前の割引率を算定する方法
実務上の調整方法として,税引後の割引率を標準税率により割り戻す場合があるが, IAS第36号BCZ85項では,税引後の割引率を標準税率で割り戻されたものが適切な税引前の割引率と等しくなる場合は,限定的であるとされている。この方法では,資産の会計上の帳簿価額と税務上の簿価の間に生じる一時差異や税金の将来キャッシュ・フローが発生する時期を反映させることができないためである。
(出典:「詳細解説 IFRS実務適用ガイドブック 第2版」あずさ監査法人)