取締役の報酬・解任を巡るトラブル
T&A master No.786のニュース特集に「取締役の報酬や解任をめぐる会社法の訴訟トラブル」として二つの事案が紹介されていました。
一つ目は、非上場企業の取締役が病気により長期欠勤状態となったことにより、本人の同意なく減額された報酬の取扱いが争われたものです。
この事案は、平成26年6月の定時株主総会で就任した取締役(任期2年)が、平成27年5月に入院し、平成28年6月の任期満了まで欠勤が継続する状態となったので、月額約65万円の報酬を取締役会決議により平成27年9月~11月分を約20万円、平成27年12月~平成28年6月分を約10万円に減額したところ、当該取締役が減額された報酬を不服として訴訟となったものです。なお、長期欠勤となった場合の取扱いについては特段の定めがなかったとのことです。
東京地裁は、平成4年12月18日の最高裁判決を引用し、仮に取締役の職務内容に著しい変更があり、株主総会等でこれを変更する旨の決議をしても、その取締役がその変更に同意しない限り、その取締役は報酬請求権を失わないという解釈を示したとのことです。
そして、この事案では会社は当該取締役に月額報酬を減額する旨を自他にFAXしているものの、入院している本人から明示的な異議申し出がないということのみでは、原告が平成27年9月以降の減額について黙示に同意していたものと解することはできないとして、会社に減額分の支払いを命じたとのことです(東京地裁平成30年9月7日判決・確定済み)。
会社からすれば、業務を行っていない取締役の報酬を減額したいというのは自然なことですが、上記のようなケースにおいても、長期欠勤時の報酬の取扱いが予め定められていない場合には、上記のように従来どおり報酬を支払い続ける必要が生じる可能性が高いという点には注意が必要です。
二つ目は、一部上場会社の臨時株主総会で解任された取締役が、解任には正当な理由がないとして、損害賠償(残存任期中の取締役報酬相当額)などを求めたという事案です。
平成28年6月の定時株主総会で取締役に選任され、同10月の臨時株主総会で解任と、わずか4カ月での解任となっていますが、会社に告知することなく他社の代表取締役に就任していたこと、秘密保持契約の締結拒否などが理由とされています。
上記のとおり取締役の就任期間はわずか4カ月ですが、上記の記事によると、「東京地裁は、被告会社は原告を取締役に選任することにより売上の飛躍的増加を期待するとともにこれに応じた報酬の支払いを企図した一方で、原告が目標の売上を繰り返し一方的に下方修正したにもかかわらず報酬金額の支払いだけに固執したことによる信頼県警の崩壊があるというべきであると指摘」したとされています。
この事案では、Tdnetや株主総会招集通知で開示された解任理由が、当該取締役の社会的信用を著しく低下させる名誉毀損に当たるという点も争われたとのことですが、東京地裁は記載された重要な部分は真実であるとして、名誉毀損には当たらないとしたとのことです。
結論としては、「原告は信頼関係の崩壊・悪化に繋がる不誠実な職務遂行を行った者として取締役としての職務遂行能力や適性に著しく欠けるところがあったいうべきであると指摘」し、正当な理由のある解任として原告の請求を棄却する判決を下したとのことです(東京地裁平成30年11月29日判決・控訴あり)。