労働基準法の管理監督者性はやはり厳しいと感じた判例ー日産自動車事件
労政時報第3977号の労働判例SELCTで日産自動車事件(横浜地裁平成31.3.26判決)が取り上げられていました。
この事件では、自動車メーカーY社の課長を務めていたAの妻Xが、Aの死亡によりAの賃金請求権の3分の2を相続したとして、Y社に対し、平成26年9月から平成28年3月までの時間外労働分につき未払割増賃および労基法114条に基づく付加金請求を行った事案で、Aの管理監督者性が主な争点となったとされています。結果的に、Aの管理監督者性は否定され、未払割増賃金請求について容認した一方で、Y社がAを管理監督者に該当すると認識したことに相当の理由があるとして付加金請求については棄却したとされています。
相当の理由というのは、自己の労働時間について裁量を有していたと認められること、およびAの年収は約1200万円で、部下よりも約250万円高かったことから待遇は管理監督者にふさわしいものであったと認められることによるものです。
労基法上の管理監督者に該当するかどうかは、①実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているか、②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか、③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきとされているところ、②および③については上記のとおり管理監督者性が認められると判断されています。
しかしながら、この事案ではAの職務および権限が、上司の補佐にすぎず、経営意思の形成に対する影響力が間接的であると認められることや、経営者側で決定した経営方針の実施状況について現状報告し、支障となる事象の原因究明の報告をしていることにすぎず、経営者側と一体的な立場にあるとまで評価することができないことから、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの職務と責任、権限を付与されているとは認められないと判断されました。
この事案では、Aが平成28年3月に脳幹出血で亡くなっている(当時42歳)という事情も影響した可能性はありますが、労働時間の裁量と十分な処遇が確保されている場合に、管理監督者として取り扱っている労働者の職務が、直接的に経営者に影響を及ぼすものであるといえるかまではきちんと検討していないことは比較的よくあるのではないかと思われます。
究極的には実態次第ということになりますが、上記の観点からすると、役員の一つ下の階層より下の労働者を管理監督者として取り扱っていると、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を有していないとして、管理監督者性が否定される可能性が高いと考えておいた方がよいと思われます。