非上場会社において訴訟で総会決議取消となった理由(2例)
非上場会社で株主が身内に限られるような場合に、総会の手続上の瑕疵があっても決議取消の訴訟が提起されることはほぼありませんが、株主が身内であっても揉め事が生じていると非上場会社でも株主総会決議の取消の訴えが提起されることがあります。
そのような事例が2例、T&A master No.797のスコープで取り上げられていました。
一つ目の事例は、株主総会における議長の選任手続をめぐり、総会の決議の方法に法令若しくは定款に違反する瑕疵があったか否かが問題となった事例です。
このケースでは議決権の62.5%を有する母の自宅で開催された株主総会において、三女が議長として話を始め、株主総会当時37.5%の株式を保有する代表取締役であった長男は、長男を取締役に選任することを希望したものの、議決権の62.5%を保有する母(総会不参加:委任状のみ)が反対したため、母や三女を取締役に選任する決議がなされたとされています。
なお、原因は記載されていませんが、この長男は決議の2日後に死亡し、株式のすべてを長男の配偶者が相続しているとされています。
上記の決議を不服として株式を相続した長男の配偶者が、決議取消の訴えを提起しましたとのことです。理由は、同社の定款には、株主総会の議長は社長で、社長に事故もしくは支障があるときは他の取締役がこれに代わる旨が定められており、この定款に違反するというものです。
結論として裁判所は、定款により議長を務めることとされる社長に対する議長不信任動議の提出や三女を議長に選任する旨の決議等が行われないままに当初から三女が議長を務めていることから、決議の方法が定款に違反していると言わざるをえないと指摘し、定款に違反する瑕疵があると判断し、本件決議を取り消したとのことです。
累積投票制度でも採用されていない限り、仮にこの長男が存命であれば、総会を適切な手続でやり直しても、結果は変わらないと思われますが、そうであっても納得がいかなかっただけなのかもしれません。かわいさ余って憎さ百倍といいますが、感情のもつれから、無駄とわかっていてもできるだけ抵抗するということはわからなくもありません。
逆にいえば、そのような特殊なケースでは、単なる手続であっても念には念を入れて対応する必要があると考えられます。
二つ目の事例は、特定の株主に招集通知を送付しなかったため、総会決議が取り消されたという事例です。
この事例では、決議事項として死亡した代表取締役に対する死亡退職慰労金贈呈の件を決議事項とする総会招集通知を、議決権の16%を保有する株主に送付せずに決議(金額は取締役会一任。その後役会で1320万円に決定)したところ、この株主が、招集手続の瑕疵を理由に決議の取消を求める訴訟を起こしたとのことです。
この総会における出席株主の総議決権数は約55%とされており、仮にこの株主が参加し、反対を表明していても可決されていたという事実は変わらないと考えられます。会社側は、裁判において裁量棄却が認められるべきと主張したとされいますが、裁判所は、株式の約16%を保有し、総会決議の内容と利害関係の深い原告株主に招集通知を送付しなかったことの瑕疵が重大でないいうことはできないとして、裁量棄却は認められないとして、本件決議を取り消したとのことです。
総会での質疑応答によって、他の株主の議決権行使状況に影響を与えるということは考えられなくはありませんが、おそらくこの事例においても、この株主に招集通知を送付していても結果は変わらなかったはずです。
単なる想像ですが、おそらくこの株主に招集通知を送付すれば、一騒動ありそうだということで送付しなかったのではないかと推測されます。また、いずれにしても過半数の賛成は得られるので、影響はないだろうという考えもあったのかもしれません。
ただし、上記の通り、再度やり直せば同じ結果になるだろうと予想できる状態であっても、重要な瑕疵の場合は、決議が取り消される可能性があると認識しておくことが必要です。