社有車運転中の音声をドライブレコーダーで強制的に録音することの可否
あおり運転がきっかけとなって、最近では車にドライブレコーダーを付けている人が増加しているという話をよく耳にしますが、社有車も同様の傾向にあるようです。
社有車にドライブレコーダーを搭載するのは、基本的には事故を起こした、あるいは巻き込まれたときに有用なためという建付けですが、社内の音声が記録されるものである場合、従業員としては正直あまりよい気持ちはしないということもあると思います。オフィスワークで、自分のデスクの周辺の音声が常に録音されているという状況を想像してみてください。
これに関連して、労政時報3981号の相談室Q&Aに「社有車運転中の音声をドライブレコーダーで強制的に録音することは許されるか」というQ&Aが掲載されていました。
浜辺陽一郎弁護士の回答は「就業規則等に根拠規定があれば、勤務時間中は許容される」というものでした。
回答の解説のポイントを要約すると以下のとおりです。
まず、従業員に対するモニタリングについては、訴訟になったケースもあるものの、確定的な考え方はまだ確立していないとされています。
「かつて職場で行われた所持品検査と同様に労働者個人の私的領域に踏み込み、プライバシー侵害の危険性を伴う点で共通する面がある」として、裁判所の考え方として参考になる最高裁判例として、西日本鉄道事件が取り上げられています。
上記の事件で最高裁は、以下の4要件が所持品検査を行うことが許容される要件として示されたとされています。
①検査を必要とする合理的理由があること
②一般的に妥当な方法と程度であること
③制度として職場従業員に対して画一的に実施されること
④検査が就業規則等、明治の根拠に基づくこと
そして、ドライブレコーダーによる監視の方が情報量を多く含む面がある点で、より高度なプライバシーへの配慮が必要のため、少なくと上記4要件を満たすことが望ましいとしています。
上記のほか、個人情報保護委員会による「従業者に対する監督の一環としてビデオやオンライン等による監視(モニタリング)を実施する際の留意点」も踏まえると、ドライブレコーダーによる監視を適法に行うには、念のためこれを許容する就業規則その他明示の根拠を整備し、それを必要とする合理的理由に基づき一般的に妥当な方法と程度で、画一的に実施する必要があると述べられています。
従業員のプライバシーとの関係については、「一般に、勤務時間中の社有車内は従業員個人の私的領域であるわけではありません。万一事故を起こした場合の検証材料を確保しておく必要性もあります」とされ、仮に顧客を同乗させるような場合であっても、「誰もがスマホ等により容易に録画・録音ができる時代となり、顧客が録画・録音している可能性もあり、会社が自らの社有車の録画・録音を認めないことも均衡を失します」とされています。
とはいえ、「勤務の監視は、必要かつ合理的な範囲に限られるべきであり、労働時間外の行動を一方的に監視・介入するような監視は認められない」とされ、また録画・録音されたデータについては、「何らの必要もなく興味本位で権限のない者がのぞき見的に見聞できるような情報漏洩がないように管理する等」は必要とされています。
会社としては、従業員を守るために搭載したドライブレコーダーであっても、従業員からクレームが寄せられることもあるかもしれませんので、就業規則の改訂なども検討したほうがよさそうです。