証券取引等監視委員会が令和元年の「開示検査事例集」を公表
証券取引等監視委員会は2019年10月23日に、開示検査によって判明した開示規則違反の内容や背景・原因などをまとめた「開示検査事例集」を公表しました。
今回検査の対象期間は平成30事務年度(2018年7月~2019年6月)で、開示検査は38件で、このうち22件の開示検査が終了したとされています。開示検査が終了した22件のうち、開示書類の重要な事項について虚偽記載等が認められた10件について課徴金納付命令勧告を行い、残り12件のうち3件については、開示書類の記載内容の訂正が必要と認められたため、開示書類の提出者に対し、開示書類の訂正報告書等の自主的な提出を促したとされています。
課徴金納付命令の対象となった10件のうち9件は売上の過大計上が認められたとのことです。このうち3件は、実態を適切に確認・検証を行わないまま、実在しない架空取引の商流に参加し、当該架空取引による売上を計上するといった不適切な会計処理を行っていたとされ、残りのうち2件は、海外子会社において不適切な会計処理が行われていたとのことです。
平成30事務年度で課徴金納付命令勧告を行った事例として紹介されていたもののうち3つは、3社とも業績拡大を図るため、取引先等からの紹介により、仕入先からの商品を販売先に販売するという新しい商流に加わったものの、実態は取引先の会社代表者によって企てられた架空取引(資金循環取引)であったために、不正会計を行っていたというものだと解説されています。
課徴金納付が命じられたものなので、てっきり会社が意図的にやったものだと考えていましたが、同事案の「監視委コラム」では、「各社は、これらの取引が架空取引であることを認知していませんでした」とされています。ただし、「各社の一部経営陣等の中には、仕入先と販売先の会社代表者が同一人物である、又は取引先の会社代表者と緊密な関係にあることを把握していたことからすれば、これらの取引は、取引先の資金繰りに寄与するだけであり、取引に参加する合理性が不明瞭な取引であったと考えられます」とされています。
なお、会計監査人の監査手続については、「取引先からの証憑類や売掛金の入金に着目した対応に止まっていました。取引量の拡大等に伴って、会計監査人が売上計上をグロスからネットに変更するよう指摘した事例もありましたが、商品の実在性の確認は疎かになっていました」と述べられています。
上記のような循環取引で利幅がどれくらいだったのかは不明ですが、開示規制違反に至った背景・原因の一つとして「売上や利益目標等の達成を過度に重視するあまり、内部統制が有効に機能していなかったこと」が挙げられています。架空売上のケースでいえば、ほとんどのケースで当てはまりそうな理由のように思えますが、上場会社である以上、売上や利益目標の達成を気にしないわけにはいかないので、いつになってもこれは当てはまりそうな気はします。