監査法人大手門会計事務所に行政処分を勧告
公認会計士・監査審査会は2019年12月6日に「監査法人大手門会計事務所に対する検査結果に基づく勧告について」において、金融庁に対して当該監査法人に対して行政処分その他の措置を講ずるよう勧告した旨を公表しました。
監査法人大手門会計事務所が監査を実施している上場企業を検索してみると、(株)ジー・スリーホールディングス(情報通信業・東二)、(株)大盛工業(建設業・東二)、(株)チノー(電気機器・東一)、林兼産業(株)(食料品・東一)、ラサ商事(株)(卸売業・東一)、(株)シンニッタン(鉄鋼・東一)他5社で合計13社がヒットしました。
上場会社13社をクライアントとして抱えていれば、中小法人としてはまずまず立派なほうだと思われますが、上記勧告において「当監査法人を検査した結果、以下のとおり、当監査法人の運営は、著しく不当なものと認められる」とされてしまいました。
まず、業務管理体制としては、代表社員3名、社員5名、公認会計士である常勤職員を中心とした監査補助者等による約20名の人員で構成されているとされ、長年にわたって上場会社10数社を被監査会社としているとともに、近年上場会社数社との新規の監査契約の締結を行っているとのことです。
決算期のバラツキがあるのかまで確認していませんが、上場会社10数社を約20名で監査するというのは、直感的には人員的に結構厳しいような気はします。この点については、上記勧告において「当監査法人の最高経営責任者は、人員が不足していると認識しており、また、品質管理の維持及び強化を、当監査法人の経営方針の最優先事項としている。」とされていますので、「働き方改革」とかいっていると監査が終わらないというような状況であったのではないかと推測されます。
そのような状況のなかどうしたのかといえば、「最高経営責任者は、実際には、監査報告書の提出期限内に、無限定適正意見を表明することを最優先と考え、職業的専門家としての正当な注意を払っておらず、また、財務諸表の信頼性を担保するという監査法人として社会から期待された役割と責任を果たす意識が不足していた。」とのことです。
そして、「特定の監査業務において、最高経営責任者を含む業務執行社員が、監査意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できなかったと認識していながら、無限定適正意見を表明している極めて不適切な状況が認められている。 」とまで記載されてしまっています。
中小監査法人にとって上場会社の監査を一つとるというのはなかなか大変なことですので、態勢が充分でないからといって断るというのは心情的には難しいというのは理解できますが、「整理期限を経過した監査調書を合理的な理由なく修正又は追加できるような状況を容認していること、公認会計士法で禁止されている社員の競業があること」なども問題点として指摘されており、ここまでくるとさすがに同情の余地はないといえそうです。
ちなみに、個別監査業務について「最高経営責任者を含む業務執行社員及び監査補助者は、被監査会社から提出された資料を追認するのみであり、職業的懐疑心が欠如している。そのため、企業環境の理解を通じたリスク評価が不十分、被監査会社の期末日付近の通例でない重要な取引に関する検討が不十分、不正リスクの評価及び対応手続が不十分、棚卸資産及び固定資産の評価等の会計上の見積りに関する検討が不十分、全社的な決算・財務報告プロセスに係る監査手続が不十分、連結子会社に対する監査手続が不十分であるなどの重要な不備が認められる」とこれでもかという位問題点が列挙されているうえ、「上記のような重要な不備は今回審査会検査で検証対象とした個別監査業務の全てにみられる」とされていますので、もはやどうにもならないレベルといえそうです。
上記からすると実質的に監査は行っていないといわれているのに等しい感じですので、この勧告を受けてどのような処分が下されるのか、今後の金融庁の判断に注目です。