パワハラ対策義務化の確認(最終回)
“パワハラ対策義務化の確認(その2)“の続きです。
しつこいですが、最初にパワハラの定義を確認しておくと、以下のとおりとされています。
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③の要素をすべて満たすものをいう。
7.パワハラの代表的な言動の類型(例示列挙)
パワハラ指針では、前回の5で取り上げた要素、当該言動により労働者が受ける身体的又は精神的な苦痛の程度等を総合的に考慮して判断することを必要としつつ、典型的に職場におけるパワーハラスメンとに該当するもの、該当しないものが例示列挙されています。
ただし、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得るとされ、あくまで例示列挙である点が強調されている点には留意が必要です。また、以下の例は、「優越的な関係を背景として行われたものであることが前提」とされています。
(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
<該当すると考えられる例>
①殴打、足蹴りを行うこと
②相手に物を投げつけること
<該当しないと考えられる例>
①誤ってぶつかること
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
<該当すると考えられる例>
①人格を否定するような言動発言を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む
②業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと
③他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと
④相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛に送信すること
<該当しないと考えられる例>
①遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意すること
②その企業の業務の内容や性質に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意すること
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
<該当すると考えられる例>
①自身の意に添わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること
②一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること
<該当しないと考えられる例>
①新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること
②懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害
<該当すると考えられる例>
①長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること
②新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること
③労働者に業務とは関係の無い私的な雑用に処理を強制的に行わせること
<該当しないと考えられる例>
①労働者を育成するために現状よりも少し他赤いレベルの業務を任せること
②業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること
(5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
<該当すると考えられる例>
①管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること
②気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
<該当しないと考えられる例>
①労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
<該当すると考えられる例>
①労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること
②労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに労働者に暴露すること
<該当しないと考えられる例>
①労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと
②労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと
項目自体はいずれも常識的に判断すれば判断を誤ることはないものばかりだと思われますが、昔はこれくらい普通だったというような感覚のズレにより、精神的な攻撃にあたるケースや、過大な要求にあたるケースが生じるということは考えられます。
8.事業主の責務
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第30条の3第2項で以下のとおり規定されています。
2 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
これを受けてパワハラ指針では、事業主は、職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないことその他職場におけるパワーハラスメントに起因する問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び休職者を含む)に言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる同条第1項の広報活動、啓発活動その他の措置に協力するように努めなければならない、とされています。
また、事業主は、自らも、パワーハラスメント問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
なお、労働者についても、労働者は、パワーハラスメント問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる措置に協力するように努めなければならないとされています。
9.事業主が具体的に講ずべき措置は?
最後に、パワハラ指針では「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容」として以下の三つがあげられています。
(1)事業主の方針の明確化及び周知・啓発
これは、簡単に言えば、就業規則等の社内規程にパワーハラスメントを行ってはならない旨、違反した場合は厳正に対処する旨を規定するとともに従業員に周知すること、社内報やホームページ、イントラネット等でパワーハラスメントを行ってはならない旨を記載し、研修・講習等を実施することなどです。
(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
これは、相談窓口を定め、相談窓口が存在することを周知徹底することです。なお、相談窓口については、相談内容に応じ適切に対応できるようにすることが必要とされています。
(3)職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
これは、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認した上で、パワーハラスメントが確認された場合には、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うことが必要とされています。
以上、記載した事項のほか、指針では「事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関して行う事が望ましい取組の内容」などについても触れられていますがここでは割愛します。
2020年6月の施行に向けて、就業規則の規定等を改めて見直してみるとよいと思われます。