代表取締役の内縁の妻に支給した給与が本人に対する給与とされた事案
税務研究会の企業懇話会のサイトで「原告の従業員であるとして代表取締役の内縁の妻に支給した本件の給与は、原告が代表取締役に対して支給する給与に含まれ、代表取締役に対して支給した給与を内縁の妻に対して支給した給与手当であると事実を仮装して経理することにより支給したものと認められるとされた事例」として2019年5月30日の東京地裁の判決が取り上げられていました。
納税者が更正処分等の取消を求めたこの事案の主な争点は①原告が、本件各事業年度に属する各月においてAに対して支払ったとする月額45万円が原告代表者に対する役員給与に該当するか否か、②当該金額が原告代表に対する役員給与に該当するとした場合、当該支給額は事実を仮装して経理することにより支給されたものであるか否かの2点とされています。
結論としては、原告の請求は棄却されています。
一つ目の争点については、「認定事実によれば、原告がAに足する給与として支給したとする本件各支給額は、Aが原告の従業員として労務提供したことに対する対価と認めることができず、その実質は原告代表者と共同生活を営む内縁の妻であるAが、自宅で仕事を行う原告代表者のために多大な労苦を伴う活動を継続してきたことに対し、その内助の功に報いる生活保障の趣旨で支給されたものと認めるのが相当であり、これは原告代表者が個人として負担すべき費用を原告が負担したものにほかならない。そうすると、かかる原告の費用負担により原告代表者が得た経済的な利益は、法人税法34条4項が定める「その他の経済的な利益」に当たり、同条1項から3項までの適用上、原告がその役員である原告代表者に対して支給する給与に含まれるものというべきものである」というのが主な理由のようです。
実質的に労働の対価とは認められないもので、本来原告代表者が負担すべきと考えられるものを会社が負担したのだから本人の給与と取り扱うというのは、当然と言えば当然なのですが、同族経営の中小企業では、内縁の妻ではなく親族に対して同様のことはそこそこあるのではないだろうかという気がします(勤務実態が全くないというケースだとすると、多くはないかもしれませんが・・・。)上記の事案では内縁の妻とされているので、月45万円という金額が他の従業員の給与に対して異常に高いとかいう特殊な状況でなければ、一般的には氏名から特殊な関係にあるとは考えないと思いますので、なんで目をつけられたのだろうというのが気になります。
二つ目の争点に関連する部分ですが、この事案ではAの出勤簿を作成し、社会保険の被保険者資格を取得させ、源泉徴収や社会保険料を預り金として経理処理するなどAが原告の従業員であるかのように装った上で支給していたとのことです。このような仮装を行っていたためこの事案では重加算税が課せられています。預り金が残ったままになっているというような状況であれば一発でおかしいということになりますが、社会保険の被保険者資格を取得しているということなので、納付も適切に行っていたと考えられ、普通に考えれば目を付けられにくい状況であったのではないかと思われます。
そう考えると、誰かが税務署に情報を提供したという可能性が高いのではないかと思われます。月45万円といえばかなりの金額ですから、面白く思わない従業員がいても全く不思議ではありません。