新型コロナ関連の後発事象記載事例
1週間ほど前に東証から「新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い」という通知が開示実務担当者宛になされており、その中で「内外の株主・投資者は、新型コロナウイルス感染症が上場会社の上場会社の業績や事業運営等に与える影響に注視しており、上場会社からの積極的かつ充実した情報提供が期待」されているとし、有報等に先立ち、決算短信や四半期決算短信の添付資料等において、リスク情報等を開示するなど適時・適切な開示が要請されています。
こうした中、経営財務誌の集計によれば、2020年3月15日までに上場159社(26業種)が新型コロナウイルスに関する影響に触れた四半期報告書を提出したとのことです(経営財務3450号「新型コロナに関する法定開示状況」)。
この記事では新型コロナウイルスに関わる記載を行った会社の8割以上は、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」において先行き不透明な状況への懸念を示したものとのことです。具体的な影響額がどうこうというよりも、全般的な状況としての記載が大部分のようですので、これ自体は3月決算会社でも結構多くの会社で記載がなされる者と推測されます。
一方、中国で事業を展開している会社の記載例としてHamee株式会社(東一、小売業、EY新日本)の事業等のリスクの記載が紹介されていました。同社の四半期報告書では、前期の有価証券報告書に記載した”「事業等のリスク」につき、以下の追加すべき事項が生じております”として以下の記載がなされています。
中華人民共和国湖北省武漢市を中心に発生した新型コロナウイルスによる肺炎の流行に伴い、当社コマース事業の主要な商品の製造拠点が存在する中国において生産活動への影響が及んでおり、今後の経過によっては、十分な販売在庫の確保が困難になるなど当社グループの事業活動及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。設置済みの災害対策本部を中心に、今後の状況推移を注視しつつ対応を行ってまいります。
多数派の3月決算会社では、改正後の開示府令の要請に基づき、6月に提出する有価証券報告書の「事業等のリスク」においてどのような記載をするのか(記載するのか、記載するとすれば何番目に記載するのか)などを検討する必要が生じると考えられます。ヨーロッパでもアメリカでも影響は拡大しているので、特に世界的に事業を展開している会社では、記載順位は上位に位置付けられるのではないかと推測されます。
そして、新型コロナウイルスの影響を重要な後発事象として記載した事例も2社あったとし、事例が紹介されていました。
後発事象で記載を行ったのは、日産自動車(東一、輸送機器、EY新日本)と極楽湯ホールディングス(JQ、サービス業、UHY東京)の2社です。日産自動車は、中国の工場の稼働が停止し、中国からの部品供給不足により国内工場でも減算を行っている旨が記載されています。
日産自動車の記載はイメージ通りであったので特にどうということはありませんでしたが、極楽湯ホールディングスは国内の施設での影響が記載されているのかと思いきや、以下の様な記載がなされているというものでした。
(新型コロナウイルスによる感染症への対応)
当社グループが中国で運営している大型温浴施設について、フランチャイズ(以下、「FC」)も含め全店臨時休業といたしました。
(1)1月23日から休業 武漢・直営1店
(2)1月25日から休業 上海・直営2店/FC3店、無錫・FC1店(江蘇省)
(3)1月26日から休業 長春・直営1店(吉林省)
※全店、営業再開日は未定です。
中国では1月24日から春節(旧正月)の大型連休に入っておりますが、この度の新型コロナウイルスによる肺炎により、武漢市を発端に上海市や中国各地で多くの娯楽施設や観光施設が政府関連当局の要請もあり臨時休業しており、ほとんどの国民が外出を控える状況が続いております。
このような中、極楽湯もお客様の来店があまり見込める状況になく、また、従業員の安全も考慮した結果、中国全店(直営4店・FC4店)臨時休業することといたしました。
今後につきましては、さまざまな地域で起きている感染症の不安が落ち着くなど政府関連当局の見解と状況を鑑みて順次営業を再開する予定であります。
武漢に直営店があったとは想像もしていませんでしたし、そもそも中国でこれだけ展開していたというのも失礼ながら意外でした。
3月決算会社におていては、期末日後に大きな変化がなければ既に発生している事象のため後発事象となるものは少ないのかもしれませんが、決算日以降オリンピックの延期が正式に決定したというよう場合には影響を受ける会社もでてくるものと思われます。
ヨーロッパ各国やアメリカの主要都市で急速に感染が拡大しているように見える中、中国が武漢以外に大きく広がっていないというのが、相当不思議な感じではありますが、色々な意味で中国だからなせる技なのかもしれません。