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キヤノンの2019年12月期監査報告書にKAMが記載

2020年3月27日にEDINETに提出されたキヤノン(株)の有価証券報告書に添付されている監査報告書において、KAMが記載されていました。キヤノンはUSGAAPで財務諸表を作成しており、米国では日本よりも1年早くKAMの記載が求められていることによるためのようです。

KAMとして記載されているのは、「のれんの評価」と「未払販売促進費の評価」の2点で、以下のように記載されています。なお、実際には表形式で記載されていますが、以下では体裁を変更していますので、気になる方はオリジナルをご確認ください。

・のれんの評価
(監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由)
連結財務諸表の注記1に記載の通り、経営者は少なくとも年次でのれんの減損テストを報告単位で実施している。2019年12月31日現在、商業印刷事業及びメディカルシステムビジネスユニットに帰属するのれんの帳簿価額はそれぞれ、27,205百万円及び508,907百万円であり、これらの報告単位について、公正価値が帳簿価額を超過する比率は、減損テストを実施した他の報告単位に比べ小さくなっている。報告単位の公正価値の決定には重要な見積りが必要であり、特に、売上高成長率、売上高営業利益率及び加重平均資本コストといった重要な仮定に対する感応度が高く、これらは将来の市場や経済情勢の予測により影響を受ける。
経営者による、これらの報告単位ののれんの減損テストの監査は、複雑かつ職業的専門家としての判断を要するものとなることから、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。


(監査上の対応)
当監査法人は、重要な仮定に関する内部統制を含む、経営者による年次ののれんの減損に関連する重要な虚偽表示リスクに対応するための内部統制を理解し、その整備及び運用状況を評価した。
報告単位ごとの見積公正価値を検証するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。
・当監査法人のネットワーク・ファームの評価専門家を関与させ、主として、公正価値の見積方法及び加重平均資本コストを評価した。
・経営者が使用した重要な仮定と、過去の実績、現在の経済情勢及びその他の関連する要因を比較することにより、重要な仮定を評価した。
・前年度の減損テストで使用した重要な仮定とその実績値を比較し、経営者による当年度の見積方法への影響を評価した。
・重要な仮定の変動に伴う報告単位の公正価値の変動を評価することにより、重要な仮定に対する感応度分析を実施した。
・報告単位ごとの公正価値の合計と会社の株式時価総額を比較した。


・未払販売促進費の評価
(監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由)
連結財務諸表の注記14に記載の通り、顧客との契約に基づく取引価格は、売上に応じた割戻し等の変動対価を含んでいる。変動対価は、過去の傾向や売上時点におけるその他の既知の要素に基づいて見積られる。会社は期末日において、変動対価に関する未払費用(以下、「未払販売促進費」という。)を連結貸借対照表の未払費用に計上している。
販売促進費の一部を構成する、販売代理店又は小売店の製品販売量に応じて支払われる販売促進費の未払計上額の見積りには、販売促進期間における見積販売数量及び対象製品に対して提供する販売促進費の水準といった重要な仮定を含む。
期末日における当該未払販売促進費の監査は、複雑かつ職業的専門家としての判断を要するものとなることから、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。


(監査上の対応)
当監査法人は、重要な仮定に関する内部統制を含む、未払販売促進費に関連する重要な虚偽表示リスクに対応する内部統制を理解し、その整備及び運用状況を評価した。
期末日の未払販売促進費を検証するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。
・販売数量及び対象製品に提供される販売促進費の水準を含む、未払販売促進費の見積りに使用されたデータを検証した。
・前期末の未払計上額と実際支払額を比較し、当期末における未払販売促進費の見積方法への影響を評価した。
・期末日後の販売促進費の実際支払額及び追加未払計上額と、期末日における未払販売促進費の計上額を比較、評価した。

同社の2019年12月末の「のれん」残高は8,986億円(総資産4.77兆円)であり、金額的にも重要ではありますが、のれんのからさらに、公正価値と帳簿価額の差がそれほど大きくなく、見積りが変動した場合に減損に陥りやすいものを対象としてピックアップしたという建付になっています。

メディカルシステムビジネスユニットの巨額ののれんは、おそらく東芝メディカルを買収した時ののれんが大部分ではないかと思いますが、公正価値と時価の差が大きくないということからすると、現時点でみても買収価格はまずまず妥当な水準であるものの、当初の計画を上回って成長しているという感じではないということではないかと考えられます。

新型コロナウイルするの影響により下方修正が散見されるような経済情勢となってきている中で、はたして2021年12月期も上記でピックアップされたのれんの公正価値は帳簿価額を上回ることができるのかに注目です。

なお、キヤノン株式会社は、2021年12月期より監査法人とEY新日本からトーマツに変更しており、監査法人交代による時期の記載内容の変化も気になるところです。

二つ目の未払販売促進費の評価について、未払販売促進費は未払費用として計上されており、「期末日における当該未払販売促進費の監査は、複雑かつ職業的専門家としての判断を要する」とされていますが、2019年12月末の未払費用(3248億)のうち金額がどれくらいの金額が対象なのかは、ざっと見た感じ記載されていませんでした。FSの注記において製品保証引当金1584億円、退職給付関連で17億円が未払費用として計上されている旨が記載されていますので、最大で1647億円という位しかわかりません。

当然金額を考慮してKAMに記載したはずですが、リベートでどれくらい支払っているのかを明らかにしたくないため上記のような記載になっているではないかと推測されます。

日本基準の会社であっても、のれんに減損の兆候があると判断されるような場合に、すべてののれんを対象とするのではなく、金額の絶対額と感度分析により見積が変動した場合に減損を認識しなければならないものをKAMの対象とするというようなことは考えられます。

米国基準適用会社の事例ではありますが、先行事例として抑えておくとよいと思います。

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