別の税理士に乗り換えられて解任された場合の報酬はどこまで請求可能?
T&A master No.829のニュース特集に「別の税理士に乗り換えられて解任、税理士報酬はどこまで請求できる?」という特集記事が掲載されていました。
経済情勢の悪化が見込まれる中、契約の解除というようなものが多くなってきそうな予感がしますので、参考までに紹介します。
この記事では二つの事件が紹介されており、いずれも相続税の申告に関連するものですが、結論としてはいずれも税理士が勝訴しています。
一つ目の事案は、別の税理士の方が相続税額を下げられるとして、委任契約を解除されたものとのことです。報酬額は400万円(税別)、中間金200万円で、契約を解除された時点では、「相続税申告に必要な相続財産に係る賃料の収集、現地調査、税務署等への問合せなどを行い、相続税申告書及び相続税延納申請書を作成し、これを所轄税務署に提出すれば足りる段階まで受任契約を遂行していたことが認められる」状態であったとされています。
また、後任の税理士との差の主要な納税額の差について、当該税理士は「A社に対する1,000万円の貸付金の計上の有無にかかるものであり、これは被相続人からの借入金であることから税理士として相続財産として計上すべきと判断したもの」と主張したとされています。
そして税理士は少なくとも業務の95%は遂行したといえると主張したとされていますが、裁判所は、前述の業務が遂行されていたことを認めたものの「当該相続税申告書について被告らと打合せ等を行い、税務署に提出し、税務署からの問い合わせがあればこれに対応し、税務調査が行われた場合には立会いを行う業務が残っており、これらを履行するに至っていなかったことを考慮」すると、遂行が完了してる業務は85%が相当であると判断したとのことです。
税理士が主張した95%には及ばないものの、やった分の報酬くらいは回収できたと考えてよいのではないかと思われます。
二つ目の事案は、当初の相続税申告の報酬に修正申告に係る報酬が含まれているのか否かで争いとなったもので、税理士が求めた報酬は32万4000円で、税理士の主張がすべて容認されたとされています。
この事案で、納税者側は、”税理士が「相続財産が1億円を超えたら絶対に税務署が来ます。そのときは何かお土産を持たせることになります。これに署名すれば事務所との煩わしい対応すべてを税理士が行います」と発現していたことから、契約書に記載された金額に修正申告費用も含まれるものとにんしきしていたなどと主張した”とされています。
上記の他、裁判における双方の主張内容は詳しく記載されていないので、なんともいえない部分はありますが、上記の記載だけからすると、正直そもそも結構怪しいなという気はします。
しかしながら、立川簡易裁判所は、上記のような被控訴人の発言が認められるとしても、修正申告が必要となった場合について費用が発生しない内容とは言えないとし、また、旧税理士報酬規定の修正申告書の作成報酬と比較しても、上記報酬は修正申告の報酬として著しく高額と窺わせる事情も認められないことから、税理士の主張を認めたとされています。
税理士の感覚として、仮に当初の報酬に修正申告の場合の報酬は当然含まれていないレベルの報酬であったとしても、それを依頼する側は、相続税の税理士報酬の相場がどれくらいが妥当なのかについて判断しかねることも十分に考えられることから、当初の勧誘の怪しさを考えると、税理士の主張を全面的に認めてよいのかは個人的には疑問を感じます。
税理士業務に限った話ではありませんが、報酬の対象業務内容に何が含まれるのかを明確にしておくというのが、無用のトラブルを避けるためには重要ということだと考えられます。