改正会社法を確認(その3)-株主総会に関する規律の見直し2
前回から随分間隔があいてしまいましたが、”改正会社法を確認(その2)-株主総会に関する規律の見直し1“の続きです。
4.電子提供制度の対象となる事項
上場会社では、株主総会参考資料等の電子提供が義務付けられるようになるわけですが、電子提供が必要となる事項の範囲を確認します。
電子提供制度を導入した会社では、原則として、以下の事項について自社のホームページ等に掲載する方法によりインターネットを通じて提供する必要があるとされています(改正会社法325条の3第1項)。
- 会社法298条1項各号に定める事項(日時、場所、目的等)
- 株主総会参考書類の記載事項
- 議決権行使書面の記載事項
- 計算書類及び事業報告の記載事項
- 連結計算書類の記載事項(会計監査人設置会社で連結計算書類を作成している場合
- 株主提案に関する議案の要領(該当ある場合)
- 上記項目を修正した場合はその旨、修正前の事項
まず、実務的には「議決権行使書面の記載事項」が含まれているという点が気になるのではないかと思いますが、結論からすると、議決権行使書面に限っては、電子提供措置によらず書面での提供することも認められています(改正会社法325条の3第2項)。
議決権行使書面を電子化するためには、議決権行使方法の電子化にも対応する必要がありますが、上場会社の議決権行使電子プラットフォームへの参加状況は東証全体では27.8%、東証1部に限ると46.1%(「株式議決権行使電子化の推進に向けて(第3回新時代の株主総会プロセスの在り方研究会)2019年11月21日」となっています。上場会社全体でみれば、約7割の会社が議決権行使の電子化に対応が必要となるという点に配慮したのではないかと思われます。
上場会社では電子提供措置に対応しなければならなくなることを機に議決権行使も電子化に対応しようという会社の相当数生じるのではないかと推測されますが、議決権行使書面も電子化した場合、株主総会への来場者が株主であるのか否かの確認をどのように行うのかが問題となります。
受付で株主名簿で氏名・住所等で確認するというようなことも考えられますが、来場者が多くなると1人当たりの受付に要する時間がかかりすぎて開始直前の来場者がスムーズに会場に入れないという事態が生じると考えられます。インターネットで表示される議決権行使書面を印刷して持参してもらうというようなことも考えられますが、複数回の印刷等による書面の使い回しにより非株主が会場に入場することを防止する対策も必要となると考えられます。どのような実務になるのかは今後の展開に注目ですが、インターネットから印刷可能な議決権行使書面等に株主別にユニークなQRコードを表示し、受付で読み取るというのは比較的簡単に実現できるのではないかと思います(2回目の読み取りであることが判明した場合、2人目の株主が真の株主だった場合どうするのかは問題となりますが・・・)。
上記のような追加の対策の必要性を考慮すると、紙の分量は激減するとしても招集通知自体は紙で発出する必要があることに変わりはないことから、議決権行使書面については、本人確認書類としての使用を想定し、あえて従来通り郵送し続けるという選択をする会社が多くなるのかも知れません。
上記2.の「株主総会参考書類の記載事項」は、特に改正があった部分ではありませんが、議案、提案の理由(取締役提出議案のみ。)(会社法施行規則73条1項1号、2号)や、会社法施行規則74条~93条で議案別に規定されている事項(例えば、取締役の選任議案では候補者の氏名、生年月日及び略歴(同74条1項1号)など)となります。
5.電子提供措置をとる場合の招集通知の記載事項
電子提供措置をとった場合に、招集通知に記載すべき事項については以下のとおりとされています。
- 株主総会の日時および場所
- 株主総会のもくてきである事項があるときは、当該事項
- 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
- 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができるとするときは、その旨
- 電子提供措置をとっているときは、その旨
- 電子提供措置を開示用電子情報処理組織(EDINET)を利用した開示を行ったときは、その旨
- その他法務省令で定める事項
現行会社法298条1項各号と比較すると、5.と6.が電子提供の場合に追加で記載が必要となる項目となります。株主総会前の有報提出が可能となっているとはいえ、大多数は総会後の提出となっていますので、電子提供措置をとっている旨を追加で記載する必要が生じると考えておけばよいと思います。
6.招集通知の発出期限
会社法改正の審議の中では、電子提供措置をとる場合の招集通知の発出期限を従来よりも早めるというような検討がなされていましたが、結論としては、基本的に従来通りで変更はありません。
すなわち、株主総会の日から2週間前までに招集通知を発出することで足りるとされています(改正会社法325条の4第1項)。
ただし、取締役会非設置会社で定款で2週間を下回る期間を定めている非公開会社が電子提供措置をとる場合も、招集通知の発出期限は総会の日の2週間前までとなるとされています(改正会社法325条の4第1項)。
株主数も少ないことが想定される非公開会社で電子提供措置をとるというケースがどれくらいあるかはわかりませんが、非公開会社は場合によっては、従来よりも招集通知を早く出す必要が生じるという点には注意が必要です。
今回はここまでとします。