有償ストック・オプションを導入する会社が増加している理由とは?
経営財務3462号に公認会計士の溝口聖規氏による「会計知識録 第4回 有償ストックオプションを導入する会社が増加している理由」という記事が掲載されていました。
まず、目に付いたのがタイトルで「有償ストック・オプションを導入する会社が増加している」という部分です。実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」の公表により、それまで費用計上不要と整理されてきた有償ストック・オプションの会計処理が改正されたことにより、直感的には減少傾向にあるのではないだろうかと感じました。
とはいうものの、適時開示で有償ストック・オプションの発行に関する開示を最近でもそこそも目にするので、実際のところはどうなのだろうというのが気になり、「有償ストック・オプション」という単語で過去の適時開示資料を検索してみたところ、ヒットした件数は以下のとおりでした。
2017年4月~2018年3月 127社/295件
2018年4月~2019年3月 45社/94件
2019年4月~2020年3月 68社/145件
「有償ストック・オプション」という単語で検索しただけであるので、必ずしも実態とは一致しないかもしれませんが、傾向としては上記実務対応報告が公表され適用開始となった2018年4月以降はその直前と比較すると大きく減少したものの、2018年度と2019年度で比べると確かに増加傾向にあります。
このような増加傾向にある理由について、上記の記事では、「有償ストックオプションは、無償ストックオプションのデメリットを実質的に低下させながら、よりメリットを追求すことが可能になります。最近、有償ストックオプションを導入する会社が増加しているのは、このような点が評価されてのことではないかと考えます」と述べられています。
ここでいう有償ストック・オプションのメリットとは以下の様にまとめられています。
①個人にとってのメリット
・税制面での優遇可能性
・短期間での権利行使
②会社にとってのメリット
・役員等のモチベーション向上
・機動的な発行
私見としては、やはり個人面で挙げられているメリットが大きいのではないかと思います。えば、大株主である役員にストック・オプションを発行すると税制非適格となってしまい、権利行使時の課税が大きくなってしまうということを回避できたり、税制適格にするための要件を意識することなく、幅広い設計が可能となるという点は魅力的だと思います。
幅広い設計という点では、業績条権等を付した場合、なんら条件が付されていない場合と比べると、行使可能性が低くなることにより期待値が低くなるため、価値が相対的に低くなり、結果として払込金額も小さくすることが可能となります。
また、ストック・オプションの発行に関する適時開示資料では、「本新株予約権は付与対象者に対する報酬としてではなく、各者の個別の投資判断に基づき引き受けが行われるものであります。」というような文言が記載されていることも多いですが、役員および会社にとってのメリットとして、報酬枠に係る問題とは切り離せるという点も大きいのではないかと思います。
もちろん手続的に、有償ストック・オプションは、公正価値で発行する限り、取締役に対しても取締役会決議のみで発行することができるものと法律上整理されているため、機動的な発行が可能となるという点もありがたい点ではあります。
ところで、上記のように有償ストック・オプションは「各者の個別の投資判断に基づき引き受けが行われる」という前提にたつわけですが、実際の申込み率について、「新株予約権等・種類株式の発行戦略と評価(株式会社プルータス・コンサルティング)」に10社の「上場会社の有償時価発行新株予約権導入時の申込率」を調査した結果が掲載されていました。
掲載されていた10社中5社については申込み率100%(申込率100%のうち3社の募集人数は2名、14名、19名と20名未満)、1社は99%とほぼ100%となっています。申込率100%で募集数が最も多かったのは日本M&Aセンターの106名ですが、申込み率99%とされている株式会社ネクシィーズは募集人数436名に対して431名と人数を勘案した場合には特筆すべき申込み率といえそうです。
「各者の個別の投資判断」であるにもかかわらず、ある程度の人数を募集している場合に、申込み率100%というのは、第三者が算定した価格に基づくものとされているものの、本当に発行価格が公正なのかなという疑念を抱いてしまいます。一方で役員や従業員を対象に募集をしながらも、申込み率が低すぎるというのも、この会社大丈夫か?と思われてしまいそうですので、7~8割程度の申込みがあると見栄えがよいのではないかと思います。あくまで個人の判断ということなので、会社がコントロールできるものではないですが・・・