公益財団法人への自己株の低額割当が散見される?
T&A master No.879に”上場会社が公益財団への自社株割当断念”という記事が掲載されていました。
投資用不動産販売・不動産賃貸管理を営むJASDAQ上場のシノケングループ(12月決算)が、同社の代表取締役社長が代表理事を務める公的財団法人に対し、同社の自己株式(発行済株式総数の2.7%)を1株1円で割り当てるとした議案を総会前に取り下げたことを取り上げたものですが、この記事によると「同族色の濃い上場会社の株主総会で散見される」ものとされています。
シノケングループの場合は、「修学困難者への奨学援助を中心とした育英事業を行う本財団の社会貢献活動を継続的かつ安定的に支援することは、当社が目指すSDGsの推進や、当社の掲げるビジョンの実現に繋がるものであり、中長期的視点及び社会的責任の観点からも当社の利益に資する」旨を提案理由に掲げていたとのことです。
一方、上記の記事によると、「公益財団法人に自己株式を割り当て、さらに創業者の死亡に伴い創業者一族の後継者が公益財団法人の代表理事に就任すれば、創業者一族が会社への支配を維持しながら、相続税負担なく実質的に持分を相続することができ、事実上の買収貿易策としても機能する」とされており、名目はなんであれ、実質は支配権維持および節税であることが多いということのようです。
シノケングループの場合、本音はなんでんであるのかはわかりせんが、結果的に総会前に議案を取り下げるという結果となりました。これについては、「議決権の事前行使における本議案への賛成率が低かったことが理由とみられる」と述べられています。
SDGsに対する取組みについては、株主からの注目度も高まっているとはいえ、株主としては、事業とは全く別枠でSGGsに取り組むということではなくて、それぞれの会社が行う事業を通じてSDGsに取り組むことを期待していると考えるのが自然です。
いままで認識していませんでしたが、このようなオーナー企業における公益財団法人への自己株式の低額での割当が比較的よくあるということでしたので、事例を検索してみると、多いというわけではないですが、それなりにあることのようでした。
シノケングループの場合は議案を取り下げていますが、2019年3月期の総会で同様の議案を総会に提出したイハラサイエンスのケースでは、臨時報告書によると同議案の賛成割合は81.49%と役員賞与の支給議案の賛成割合(96.76%)などと比較すると、反対の割合がかなり大きいということがわかります。
株主構成によってどの程度賛成票を獲得しやすいのかは変わってくるものの、一般論としては反対株主の割合は高くなると思います。SDGsなどを理由にするとしても、色々なやり方がある中で、自己株式を公益財団法人に割り当てるというような方法が最善の方法であるとは言い難いと思いますので、SGDsを本当に目的とするのであれば、別の方法によるというのが無難なのではないかと思います。