届出漏れが原因で不支給となっていた手当は遡及して支払う必要があるか?
属人的な手当は近年のトレンドからすると多少減少傾向にあるのかもしれませんが、家族手当や住宅手当などが支給されている会社も依然多いと思います。
そのような手当が支給されている場合、本来もらえるはずの手当をもらっていなかったと従業員から申し出があった場合に、会社として過去2年分は遡って支給しなければならないのかが問題となります。
このような手当を支給する義務は会社にないわけですが、支給される手当の種類・要件などについては会社の規程に定められているのが通常であると考えられ、「家族手当や住宅手当は、賃金規程等で制度化されているかぎり賃金にあたる」(労働法第12版(菅野和夫)422ページ)と解されています。
規程等で制度化されている場合には賃金にあたるうえ、「家族手当や住宅手当について具体的な就労の有無にかかわらず支給する旨の合意があると解釈される場合には、労働不能の場合にもこれらの手当を請求できる」との見解もあります(詳解 労働法初版(水町勇一朗)588ページ)。
たとえば、「完全月給制」といわれるような欠勤控除がないような給与体系である場合には、各種手当にるいても上記のような解釈が成り立つのではないかと考えられます。
さて、話を戻すと、「賃金」にあたるとすれば時効は2年(労働基準法115条)ですので、最大2年遡って手当を支給することが必要となる可能性があるということになると考えれます。
一方、会社の賃金規程等によって、例えば家族手当は届出のあった月から支給するといようような定めがあり、従業員が届出を提出していないために不支給となっていたような場合にどのように対応するかが問題となります。
このような場合、各種手当を支給する手続要件が規程に定められている以上、基本的には会社に届出前の手当を遡って支給する義務はないと考えられます。しかしながら、扶養している子供に対して支給することとされている家族手当の場合、会社は健康保険証の発行や、あるいは年末調整関連の書類によって、当該従業員に家族手当の支給対象となる子供の有無・人数等を確認することが可能であるという状況があるなかで、手続きの不備を理由に不支給とするのは酷であるという考え方もあります。
しかしながら、届出を基準に支給することとしている会社の意図としては、他の諸手続きから情報を会社が把握することが可能であるとしても、他の情報から把握しようとすると漏れが生じる可能性があることや、業務フロー上の便宜から別途の届出により処理することとしているということだと考えられますし、仮に過去分に遡って支給するという実績を作ってしまうと、同様の従業員がでてきた場合に同様の対応をしないと不公平感が生じます。
結局のところ、ばっさり切るのか、温情措置で遡って支給することとするのかは会社の考え方次第ということになります。各種手当の支給要件によりますが、年末調整の提出資料で補足できるものも多いと考えられますので、年末調整書類と各種手当のチェックを行うようにするとともに、そのようなチェックを行っていたとしたらならば把握できたであろうタイミングまで遡って支給するというのが現実的な落とし所ではないかと思います。手間は増えますが、本来支給対象から外れている手当が継続して支給されているというケースも考えられますので、年1回位はなんらかのチェックを行うのが無難と考えられます。
ちなみに、規程上、各種手当の支給が、ある事象が生じた月(居住を始めた月など)から支給するとされているような場合には、遡って手当を支給しなければならないということになると考えられます。