役員報酬が総会決議枠を超えるミスが散見されたそうです。
T&A master No.896に「役員報酬が総会決議枠を超えるミス散見」という記事が掲載されていました。
ありそうなミスではありますが、「散見」というほどの件数が発生しているのだろうかと記事を確認してみると、「役員報酬が株主総会で決議した上限がを超過するミスが複数の上場会社で発生している」とされ、東証一部上場の前澤工業とメディアスホールディングスの事例が取り上げられていました。
前澤工業では、2012年8月30日開催の定時株主総会で取締役の報酬額を200百万円以内(うち、社外取締役分は年額15百万円以内)とする決議をおこなっていたが、2020年6月~2021年5月に支払った社外取締役に対する報酬が16.5百万円で、限度額を1.5百万円超過していたとのことです。
同社は、2021年7月29日に「株主黄海決議を超過する社外取締役の支払について」という適時開示を行っており、報酬限度額超過分については、社外取締役に返還請求を行う予定としています。
T&A masterの記事によると、同社は2020年8月から社外取締役を1名増員して3名体制としたものの、社外取締役の報酬枠を引き上げていなかったことがこのような事態を招いた要因であるとしています。2021年5月期の事業報告書の「取締役および監査役の報酬等の総額等」として社外取締役の報酬が16百万円とされており、その直前に「平成19年8月30日開催の第61回定時株主総会において年額200百万円以内(うち社外取締役分は年額15百万円以内、使用人分給与は含まない)と決議頂いております」とあるので、誰かが気づいてもよさそうではありますが、限度額を超えるような報酬の決め方はしていないだろうと考えるのが普通なのでそのチェックは甘くなるかもしれません。
社外取締役からすると、当初合意したはずの報酬額が支払われないということになるはずですので、会社法上仕方がないものの納得できないという面はあると思います。実務上考えられるのは、来期の報酬で調整するということですが、実際どうなるのかは今後2年の社外取締役の報酬の推移をみるほかなさそうです。
もう1社のメディアスホールディングスは、監査役の報酬額上限額を超過したという事例です。監査役の報酬は、人員数が増減することは稀ですし、取締役と比較すると報酬額も安定しているのが通常ですので、限度額を超過するというのは取締役よりも一般的には発生しにくいものと考えられます。
ただし、同社のケースでは、2010年6月期の定時株主総会で監査役報酬の上限額50,000千円を決議した時点では、監査役が3名であったところ、2018年6月期以降は監査役を6名体制(常勤2名、社外4名)としたことにより、2019年6月期以降、上記上限額を超過した報酬が監査役に支払われていたとのことです。
監査役が6名とはいえ、上限額50,000千円を超過するのは、監査役としてはかなり高額な報酬だと思います。2020年6月期の株主総会の招集通知を確認してみると、社外監査役4名分の報酬が19,200千円、合計6名で54,720千円ですので、常勤監査役2名がで35,520千円となり、各人別の内訳は不明ですが、監査役の報酬としては高い方に入ると思われます。
ちなみに同社が2021年8月27日に開示した「株主総会決議を超過する監査役報酬の支払について」によると、2019年6月期以降毎年4百万円~6百万円程度限度額を超過していたとされています。報酬限度額を超過した分については、監査役に対して返還請求を行うことについて、全監査役から同意を得ているとのことです。
メディアスホールディングスは、有価証券報告書では「監査役の報酬限度額は年額50,000千円以内とする旨を決議いただいております。」と記載されているものの役員報酬の額については社外役員合計で記載されており、事業報告では「監査役の報酬については、監査役の協議に基づき個別報酬を決定しております」と記載されているのみですので、限度額が記載されていませんので、限度額を超過しているかどうかが外からは判断しにくいという状況にあったことも複数年にわたり限度額を超過していたという事態を生じさせた要因ではないかと思われます。