株式交付制度(その1)-制度概要など
2021年3月1日に施行された令和元年改正会社法で導入された株式交付制度については、2021年5月24日にGMOインターネット株式会社がこれを利用して子会社化をするなど利用が開始されています。上場会社にとっては使い勝手のよい制度ではないかと大雑把に理解していますが、理解を深めるため株式交付制度について確認することとしました。
1.株式交付制度とは何か
上記のとおり、株式交付制度は令和元年改正会社法で導入された制度ですが、条文上は会社法第2条第32号の2に以下のように定義されています。
株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る。第774条の3第2項において同じ。)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう。
従来の制度でいえば「株式交換」が連想される仕組みですが、株式交換は他の会社の株式をすべて取得して100%子会社化する制度であるのに対して、株式交付は「子会社とする」ための制度です。ここで、「子会社とする」とは、自己(子会社等を含む)の計算において所有している議決権の数の割合が100分の50を超えるようにすることを意味します(会社法施行規則第4条の2、第3条第3項第1号)。
会社法上は、他の会社等の議決権の総数に対する自己の計算において所有している議決権の数の割合が100分の40以上である場合で一定の要件を満たすような場合にも子会社に該当することととされていますが(会社法施行規則3条3項2号、3号)、このような子会社とするために株式交付制度を使用することはできません。これは、利害関係者が不安定な地位に置かれるなど法的安定性を阻害することがないように、株式交付制度の可否を客観的かつ形式的な基準により判断することができようにする必要があったためとのことです。
「子会社とする」ための仕組みですので、すでに子会社化している会社の持分を追加で取得するというような場合には使用できないということになります。子会社化した後の追加取得においても同様の制度を使用できたほうが便利だと個人的には思いますが、株式交付制度は、親子関係がなかった株式交付親会社と株式交付子会社との間に親子会社関係が新たに創設されることに着目した組織法上の行為と位置づけられているため、子会社化した後の追加取得は制度趣旨に合致しないということで認められないとのことです。
また、「株式交付」という表現は従来あまり目にしない表現だったと思いますが、会社法で「発行」とは新株式のことで、「交付」という場合には、新株式も自己株式も含むという違いがあるとされています(「株式交付」活用の手引き 金子登志雄著 中央経済社 P9)。
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strong>2.株式交付制度が創設された理由
令和元年改正会社法の確認となりますが、そもそも株式交付制度が導入されたのは何故かという点について確認しておきます。
改正前の会社法においても、他社を子会社化する場合に、対象会社の株主に保有する株式を買手に現物出資してもらい、当該株主に対して買手会社の株式を発行するということは可能でした。しかしながら、この場合、原則として検査薬の調査(会社法207条)が必要となり、かつ、財産価額填補責任(会社法212条、213条)が生じる可能性があることなどから、このような手法が用いられることはほとんどなかったといわれています。
「買収会社が被買収会社をその子会社としようとする場合に、被買収会社を完全子会社とすることを予定しているか否かで規律に大きな違いを設ける必要はなく、買収会社がその株式を対価とする手法により円滑に被買収会社会社をその子会社とすることができるように見直すべきであると指摘されていた」(「一問一答 令和元年改正会社法」竹林俊憲著 P187)とされ、より円滑に株式対価M&Aが実施できるようにするため株式交付制度が導入されたとされています。
3.株式交換との異同
会社法上、株式交換は、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいうとされています(会社法2条31号)。
株式交換も株式交付も、検査役の調査(207条)、財産価格填補責任(212条、213条)等の現物出資に関する規律及び有利発行規制(199条2項、3項、201条1項、309条2項5号)は適用されないこととされています。
一方、株式交換は、子会社化される会社からみてその株式を親会社となる会社に「取得させる」ものであるのに対して、株式交付は、親会社となる会社が当該株式会社の株式を交付するものですので、みている方向が反対となっています。
この他、主な相違点は以下のとおりとされています(一問一答 令和元年改正会社法」竹林俊憲著 P188~189)。
①親会社となる会社の種類
株式交付において、株式交付親会社となるのは株式会社に限られますが、株式交換において、株式交換完全親会社となるのは株式会社のほか合同会社の場合があるという点で異なっています。
②株式の取得
株式交付においては、株式交付親会社は、株式交付子会社の株式を有する者の譲渡しの申込み等(774条の4、774条の6)に基づき、申し込み等があった数の当該株式を譲り受けることとされています。
一方、株式交換では、株式交換完全子会社の株主は、株式交換契約の総会決議で議決権を行使することはできるが、その有する株式に個別に譲渡しの申し込みをするわけではないという点で両者は異なっています。
③対価
株式交付においては、株式交付親会社は、株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として株式交付親会社の株式を全く交付しないことはできません(金銭等を交付することができないわけでありません)が、株式交換においては、株式交換完全子会社の株主に対して株式交換完全子会社の株式の対価として株式交換完全親会社の株式を全く交付せず、それ以外の金銭等のみを交付することができるとされている点で異なります(768条1項2号)。
④子会社による親会社株式の取得の可否
これは、株式交付あるいは株式交換を実施する際に、それを実施しようとする会社の親会社株式を取得することができるかという内容になります。株式交付においては、株式交付親会社が、株式交付に際して対価として交付するために株式交付親会社の親会社である株式を取得することはできませんが、株式交換においては、株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社に対して交付する限度で、株式交換完全親会社の親会社の株式を取得することができるとされています(800条1項)。
⑤子会社の新株予約権
株式交付においては、株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式と併せて株式交付子会社の新株予約権等を譲り受けることができるとされていため(774条の3第1項7号)、株式交付親会社は、自らが株式交付子会社の新株予約権者及び社債権者となります。これに対して、株式交換においては、株式交換完全親会社が株式交換に際して株式交換完全子会社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる当該株式交換完全