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みなし取得日に発生した多額の「のれん」等を即減損した事例

会計的な側面でみると色々と興味深い事例だと思いましたので、2022年8月12日に株式会社freeeが公表した開示書類等から、同社が実施した減損について少し調べてみることにしました。

そもそも、この件に興味をもったのは、決算発表後の同社の株価が一時値下がりランキングのトップ5に入っているのを目にしたことからです。

短信によると2022年6月期の売上は前期比約40%増加したものの、最終損益は116億円の赤字となっており、大きな赤字の原因は期末に約91億円の減損を実施したことによるものでした。

この減損に関連して同日付で開示されている「中長期経営戦略の公表及びそれに基づく特別損失の計上について」において以下の様に説明されています。

個別事業は計画通りに進捗しているものの、上記会計基準に従い、のれん及びその他固定資産に対して、主要な資産の残存耐用年数等を見積もり期間とし、中長期経営戦略で想定しているキャッシュ・フローと全固定資 産の帳簿価額を比較した結果によるものです。なお、当社はスモールビジネスに「だれもが自由に経営できる統合型経営プラットフォーム」の実現を目指してサービスの開発及び提供をしていることから、減損判定にあたっての 資産グルーピング(事業単位)をプラットフォーム事業一体として扱っているため、本減損損失の判定においては M&Aに伴うのれんを含む全固定資産を対象としており、のれんの減損は個別事業の実績に起因するものではございません。

減損は会計基準上求められているグルーピングの方法に起因するもので、個別事業は順調なので問題がないと説明しているように読めます。同社のセグメントを確認してみると、一昨年までは単一セグメント、昨年からは「プラットフォーム事業を主な事業としており、他の事業セグメントの重要性が乏しいため、記載を省略しております。」と、プラットフォーム事業以外のものが少しあるようですが、「その他」を明示して示す必要がないくらい僅少なもののと思われます。

したがって、グルーピングは連結ベース全体に近似したものといってよさそうです。一般論としては、グルーピングが大きくなればなるほど、減損損失の計上額は小さくなることが多いので、「個別事業は計画通りに進捗」しているにもかかわらず、多額の減損が計上されるというのはどういうことなのか。子会社に問題があるということなのかと思いましたが、「個別事業は計画通りに進捗」と書いてあるだけですので、計画通りにキャッシュフローがマイナスで進捗しているということかもしれません。

そもそも、「個別事業は計画通りに進捗している」と個別に管理している感を出すのであれば、減損のグルーピングが適切なのだろうかという単純な疑問も生じます。キャッシュ・フローの相互依存性等の観点から開示セグメント単位がグループピングとして適切ということはありえますが、減損の適用指針73項では、「連結財務諸表における資産グループは、どんなに大きくとも、事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメントの基礎となる事業区分よりも大きくなることはないと考えられる。」とされており、一般論としては、「プラットフォーム事業」が「どんなに大きくとも」の上限でグルーピングを行っていると考えられます。

個別業績以外がきちんと把握できないから、全体でグルーピングしているという可能性もありますが、とはいえ子会社は子会社で決算を行っているので、子会社の業績が個別に把握できないなんていうことはないと考えられます。

特に、2022年6月末をみなし取得日として取得したMikatus株式会社については、少なくとも2022年1月期までは有価証券報告書を提出し監査も受けており、CF計算書も開示されています。Mikatus株式会社の有価証券報告書によれば、以下の通り2022年1月期では債務超過ではあるものの、営業CFは+122百万円と2期連続で営業CFがプラスと順調に推移していたように見受けられます(投資CFは直近2期は僅少)。

これにより、freee社は取得時点で債務超過の状態であったであろうMikatus社を株式交換により取得し、取得原価がのれんに約11億円、顧客関連資産等に約23億円が配分するくらいの金額で取得したものの、みなし取得日(2022年6月30日)に「なお、当該のれんの全額は減損処理をしております。」および「なお、当該顧客関連資産の全額は減損処理しております。」と全額減損処理されています。

Mikatus社の取得に関連して開示されている「現金対価の簡易株式交換によるMikatus株式会社の完全子会社に関するお知らせ」(2022年5月12日)によれば、以下の様に述べられており、(そもそもプラットフォーム事業と一体という前提なのでこの表現自体がおかしいのかもしれませんが)Mikatus社の事業がfreeeの事業の影響を大きく受ける前提で価値算定が行われていたというのは確かなようです。

AIPは、Mikatusが非上場企業であることを勘案し、その株式価値については、将来の事業活動の状況を評価に反映させるため、事業の将来のキャッシュフロー(収益力)に基づくDCF法を用いて算定を行いました。なお、AIPがDCF法による算定の前提としたMikatusの財務予測においては、大幅な増減益を見込んでいる事業年度が含まれております。具体的には、Mikatusはfreeeグループ参入に伴うシナジー創出による売上高の増加及びオペレーションの効率化等を踏まえて、2024年1月期及び2025年1月期にそれぞれ前年度に対して3割以上の増益を見込んでおります。

ちなみに、上記では「大幅な増減益」となっていますが、特に減益を見込んでいる年度についての記載はありませんでしたので、「2024年1月期及び2025年1月期にそれぞれ前年度に対して3割以上の増益」を見込んだ評価となっているというのがポイントのようです。

取得ありきで取得金額の妥当性をなんとかしようとしている感があるのはありがちなので、それはそれとして、Mikatus社としての「事業の将来のキャッシュフロー(収益力)」が把握されているものの、連結ベースではプラットフォーム事業全体としてグーピングされてしまうということになります。

結果として、本来であれば「のれん」やその他の無形資産として資産計上されるはずであった金額が取得即減損ということになっています。

調達した資金でとりあえず売上成長と利益が出そうな会社を割高で構わないので取得し、取得価額は適当に正当化し、グルーピングを適当にやって全額減損すると、来期以降は売上と利益は増加してくので成長してます(順調です)アピールがしやすくなるというスキームとも考えられます。単に、監査法人に減損がどうこういわれるのが面倒だから全額減損してしまおうということかもしれませんが、いくらなんでもやりすぎなのでは?というのが正直な感想です。

freee社の決算説明資料には、「減損計上に伴うPL/CFへの影響」として「キャッシュフローについては、本減損に伴う影響は特段生じない」と記載されており、キャッシュフローには何ら問題はないですよというニュアンスが感じ取れますが、将来キャッシュフローで回収できないと判断したから固定資産を減損したんだよね?と突っ込みたくなります。

ただ、2027年6月には売上500億円という目標を掲げており、2025年6月期にブレークイーブン、それ以降黒字化というのが現時点の見込みとされ、目標値の売上500億円が達成できるのであれば、26年6月期以降はそれなりに大きな利益がでることが想定されるはずですので、減損の検討にあたり、監査法人から現実的な事業計画ではないと判断されたということなのかもしれません(なお、今回の減損処理について、監査法人が適正意見をだすのかどうかは現時点で確認できていません)。

今回の減損では、結果的に全ての有形・無形固定資産を0にするという結果となっていますが、連結全体で減損を判定しているに等しいということは、連結営業CFがマイナスが継続していた中で、前期の会計上の見積り注記およびKAMはどうなっていたのだろうというのが気になったので、最後に確認してみることにしました。

まず、2021年6月期に記載されていた重要な会計上の見積りは以下の三つでした。
(1)固定資産の減損
(2)非上場株式の評価
(3)のれんの評価

固定資産の減損には以下のように記載されています。

有形固定資産は、主にPC等です。無形固定資産は、主に自社開発ソフトウェアです。
当社グループは、事業単位を基準とした管理会計の区分に従って資産のグルーピングを行っております。有形固定資産及び無形固定資産について、減損の兆候があり減損損失を認識するかどうかの判定を行う場合には、当該資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積っております。
当連結会計年度において、継続して営業損失が計上されていることから、減損の兆候があると判断し、減損損失の計上の要否について検討を行いました。検討の結果、割引前将来キャッシュ・フローが固定資産の帳簿価額を超えると判断し、減損損失は計上しておりません。

上記でいうところの「事業単位を基準とした管理会計の区分」がプラットフォーム事業全体であったということのようです。2021年6月末時点では、「割引前将来キャッシュ・フローが固定資産の帳簿価額を超える」と判断されていました。

のれんの評価については、前期に取得した株式会社サイトビジットを取得した際に発生したのれん約38億円にかかるものとなっており、以下のように記載されています。

当社グループは、のれんが帰属する事業単位を基準とした管理会計の区分に従って資産のグルーピングを行っております。のれんについて、減損の兆候があり減損損失を認識するかどうかの判定を行う場合には、継続的に収支の把握を行なっている管理会計上の区分別の将来計画に基づいて、のれんを含む資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積っております。
当連結会計年度において、一部ののれんを含む資産グループで、取得する際に買収価格の前提となった事業計画より実績が下回っていることから、減損の兆候があると判断し、減損損失の計上の要否について検討を行いました。検討の結果、割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を超えると判断し、減損損失は計上しておりません。

ここでは、「継続的に収支の把握を行なっている管理会計上の区分別の将来計画に基づいて、のれんを含む資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積っております」とされていますが、今回の減損の開示内容からすると結果的に、継続的に収支の把握を行なっている管理会計上の区分=のれんを含む資産グループということだと推測されます。

さて、これに対してKAMは「株式会社サイトビジットの株式取得に係る取得原価の妥当性」一つが記載されていました。

監査法人は、「株式会社サイトビジットの株式取得に係る取得原価の妥当性が、当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要」と判断して、結果的には1年以内に全額減損が公表される取得原価の妥当性を検討するにあたり以下のような対応を実施したとされています。

(1) 内部統制の評価
株式取得に係る取得原価の妥当性の検討に関連する内部統制の整備及び運用状況の有効性を評価した。評価に当たっては、特に事業計画に含まれる主要な仮定である新規受注による顧客数の増加予測の合理性を評価するための統制に焦点を当てた。
(2) 株式取得に係る取得原価の妥当性の検討
将来キャッシュ・フローの見積りの基礎となる事業計画における主要な仮定の合理性を評価するため、その根拠について、経営者及び投資事業の責任者に対して質問したほか、主に以下の手続を実施した。
・将来キャッシュ・フローの見積りに用いられた事業計画の妥当性を検証するために、売上高について、事業別の売上積み上げ資料と照合した。その上で、当該事業計画を前提とした株式取得に関する会議体の議事録を閲覧した。
・新規受注による顧客数の増加予測について、外部機関が公表している電子契約サービス関連の市場予測データと比較し、予測の合理性を評価するとともに、類似サービスの過去の販売予測と実績との関係と整合的であるか否かを検討した。
・当監査法人のネットワーク・ファームの評価の専門家を関与させ、主として、株式価値算定に使用された手法、基礎データ及び前提条件並びに割引率の合理性を評価するため、利用可能な外部データを用いた比較計算を実施した。

監査上の対応として書いてあることは、おおよそこんな感じになるのだろうなという内容だと思います。将来の見込は時点時点で大きく変動することがあるのは確かですが、「合理性」「妥当性」「整合性」にかかわらず、監査報告書日から1年未満で回収可能額が0になり、現時点では不明ですが翌年度も適正意見となるのであれば、監査実施側は結構虚しさを感じているのではないかと思います。

今年度のKAMが何になるのかは分りませんが、やっぱり多額の減損を計上しているので減損処理の妥当性なんかがピックアップされるのかもしれません。グルーピングの妥当性本当にあるのかなというのが個人的には気になります。

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