会計帳簿閲覧権の対象となる「会計帳簿又はこれに関する資料」は資料毎に判断
会社法433条において、議決権の3%以上の株式を保有する株主は、株式会社の営業時間内、いつでも以下の請求をすることができるとされています。ただし、該請求の理由を明らかにしてしなければならないとされています。
- 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
- 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
いわゆる会計帳簿閲覧権と言われるものですが、この少数株主権をめぐる興味深い判例(東京高裁平成28年9月8日)がT&A master No.661で取り上げられていました。
紹介されていた事案は、「被告会社の発行株式を約3.1%保有する原告株主(法人)が被告会社に対して、会社法433条1項に基づき「会計帳簿又はこれに関する資料」として、賃貸業を営む被告会社が所有しているビル・倉庫・駐車場に関する賃貸借契約書などの閲覧謄写を請求していた事件」とされています。
この対象会社が上場会社であるかどうか、およびこのような請求を行った理由については述べられていませんが、約3.1%の株式を保有するというあたりからすると、少数株主件を行使しようと3%以上の株式を取得したということなのかもしれません。
この株主からの請求に対し、会社(被告会社)は、賃貸借契約書のうち「会計帳簿又はこれに関する資料」に該当するのは、「賃料額」、「賃料の支払いについての約定」、「預かり保証金額」及び「預かり保証金の返還ないし償却についての約定」に関する部分のみに限られると主張したとのことです。
理由は、上記以外の部分は会計帳簿の作成に利用していないからというものです。
会社の主張通りであれば、関係ない部分はすべて黒塗り等に加工した契約書を閲覧させることになるのではないかと思いますが、残念ながら裁判所はこの考え方を斥けました。
東京地裁は、”会計帳簿又はこれに関する資料」に該当するか否かは原則として資料ごとに判断すべきであり、1つの資料のうち「会計帳簿又はこれに関する資料」に該当する部分とそうでない部分を分けて閲覧謄写を認めるかどうかを判断することは想定されていない”とし、会社に対して株主に賃貸借契約を閲覧謄写させるように会社に命じていました。
そして今回の東京高裁の判決においても、賃貸借契約書についてその一部のみの閲覧謄写を認めるべき事情はうかがわれないとして東京地裁の判決が支持されました。
会計帳簿の作成に無関係に事柄まで閲覧等請求の対象となるのは制度の趣旨に合わないという会社の主張も理解できなくはありませんが、会社が関係ないとしている部分に本来正しく処理すべき事項が含まれている可能性もありえるのも事実です。
不正な目的等で会計帳簿の閲覧を請求された場合、会社はこのような請求を拒むことができるとされている以上(会社法433条2項)、少数株主が自らの権利を適切に行使する上では、その判断を会社に行わせるというのはやはり問題があると考えられますので、裁判所の判断は妥当だと考えます。